“ブラック企業”の時代はもう終わりそれでは今から一体、日本経済にはどんな変化が起こるのだろうか。ワークスタイルと密接に関係する雇用の領域では、労働力不足と賃金上昇が急速に進む可能性があるという。
「ご存知のように足元では今、パートやアルバイト、派遣、期間工といった非正規雇用の人件費が上がってきている。東京では、最低賃金ではもう雇えない」
脱デフレへと転じた賃金――。非正規と比べれば緩やかだが、正規雇用についても賃金は上昇していく。さらに、少子高齢化による生産人口の減少が今後、労働力不足と賃金上昇にいっそう拍車をかけていく。
「企業にとって、これまでの20年はある意味、“良い時代”だった。景気は悪いが、物価は下がるし、いくらでも人が雇える。そこで“ブラック企業”などという恥ずかしい言葉が広がってしまったが、そういう時代は終わったと認識する必要がある」
賃金が上昇すれば、生産性を向上できない企業は生き残れない伊藤氏は、今後5年間で賃金が20%上昇したら、という仮定のもと議論をさらに進める。
「20%というのはいい加減な数字だが、年率3.4~3.5%で上がっていくと、5年で20%の上昇になるので、それほど荒唐無稽な数字でもない」
こう前置きしたうえで、「賃金が20%上昇すれば、生産性を20%上げない企業は生き残れない。労働力が減少し、賃金が上昇するということは、こういうこと」と警鐘を鳴らした。
もちろん、すべての企業が生産性を上げられるわけではない。必然的に、多くの企業が破たんや吸収などを余儀なくされる。個々の企業にとっては厳しい現実が待ち受けるが、日本経済全体からすると、これは単なる破壊ではない。経済学者のシュンペーターがいう「創造的破壊」になる期待があるという。
「生き残った企業は生産性が20%上がっているわけで、日本の経済成長を20%押し上げる要因になる」からだ。
「生産性の上昇とは、こうやって起こるもの。すべての企業が同じように底上げしていくということはありえない。例えば、農業を見てほしい。日本では今、7%の農家が50%の農作物を作っている。この7%の農家のシェアがさらに増えれば、日本の農業の生産性はもっと上がる。流通業もそうだ。どう見ても、セブン-イレブンやユニクロの生産性は、そのあたりの店の2倍か3倍ある」
社員の満足感と生産性を上げるワークスタイルをこのように、日本ではこれから企業淘汰が加速するが、生き残る側になるために必要なことは何か。その1つこそが、ワークスタイル変革だ。
「働いている人に満足感を持ってもらいながら、生産性を上げていくビジネスモデルができない企業は生き残れない」
伊藤氏によれば、デフレ環境下で“守り”を強いられてきた日本企業は、次の3つの大きな変化にしっかり対応してこなかったという。人材不足、ICT、グローバル化の3つだ。これらは、いずれもワークスタイル変革と深い関係がある。
講演の最後に改めて「日本経済はルビコン川を渡った」と強調した伊藤氏。後戻りのない新しいフェーズに突入した今、日本企業はこれまでの常識を捨て去り、ワークスタイル変革をはじめとする改革を力強く推進する必要に迫られている。