――第1四半期の携帯電話出荷台数は国内が前年比43%減、世界全体でも同15%減と引き続き厳しい状況が続いています。携帯電話端末のブラウザやアプリケーションを開発している御社も少なからず影響を受けていると思われますが、現在の携帯電話市場についてどのように見ていますか。
鎌田 今年(2009年)はNTTドコモのiモードサービスが始まってからちょうど10年という節目の年です。これまで当社は、通信インフラとハードウェアの進化に合わせてソフトウェアで新機能を提供してきました。しかし、携帯電話が1人に1台行き渡り、目新しい機能もそろそろ出尽くした感があったところに、新販売方式や不況が重なりました。
ただ、どの産業にも共通して言えることですが、ある程度まで普及が進むと、その後は右肩上がりの成長は止まるものです。日本の携帯電話の加入者はすでに1億人を超えている状況ですから、買い替えサイクルが長期化するのは当然です。それでも、使い続けていれば本体が傷ついたりバッテリーが消耗しますし、来年にはLTEも始まります。このように2~3年に1度は買い替えることになるので、出荷台数も年間3000~3500万台程度は確保できるのではないかと思います。
携帯電話はすでに生活の一部としてコミュニケーションに欠かせないツールになっています。中長期的には、ユビキタス社会の重要なツールとしてまだまだ成長し、明るい未来があると思ってよいのではないでしょうか。
また、海外ではこれから3Gを開始するところも多く、メールやブラウジング、音楽ダウンロードなど日本で数年前に流行ったものがこれから広まろうとしていることから、まだ台数が伸びる余地があります。当社の携帯電話向けの「NetFront Browser」も海外における搭載シェアが拡大しています。日本メーカーにとっても、まだまだ海外展開のチャンスがあると思います。
戦略製品「ALP」をリリース
――市場環境が大きく変化する中で、御社の事業展開も変わっていくのですか。
鎌田 当社では「NetFront Browser」に代表されるアプリケーションビジネス、LiMo Foundationの仕様をサポートした「ACCESS Linux Platform(ALP)」やネットワーク機器向けのルータソフト「ZebOS」などのプラットフォームビジネス、そして昨年から本格的にスタートしたメディアサービスビジネスの3層構造で事業展開しています。
携帯電話に搭載されるソフトウェアは膨大になり、多数のソフトウェアコンポーネントが統合されるようになりました。その結果、開発コストをどう下げるかが業界の課題です。当社は、2005年にPDA向けのOSとして有名な米PalmSourceを買収し、Linuxをベースとして必要なミドルウェア・アプリケーションを統合してセットにした 「ALP」を開発しました。
――ALPにはどのような特徴があるのですか。
鎌田 携帯電話向けのプラットフォームとしては、Android、SymbianOS、Windows Mobile、iPhoneなどがありますが、これらはプラットフォーム提供者が同時にサービス提供者でもあり、垂直統合型になっています。
これに対し、通信事業者は自社のサービスを実現できる自由度の高いプラットフォームを必要としており、この目的のために、Linuxベースの携帯電話プラットフォームを策定するコンソーシアム「LiMo Foundation」ができました。
当社はLiMoでも積極的に活動しており、「ALP v3.0」ですでにLiMoに対応しています。ALPはオペレータフレンドリーなプラットフォームを目指しており、その上で稼動する通信事業者独自のアプリケーションパッケージ「オペレータパック」を開発することができます。
国内ではドコモと協業し、ドコモ仕様に対応したオペレータパックを開発しています。欧州の通信事業者オレンジとの間でも同社のオペレータパックを共同で開発しました。順次、他の大手通信事業者向けにも開発していく予定です。
端末メーカーはALPを採用することで、独自の付加価値部分の開発に集中でき、開発規模を大幅に抑制して開発コストの削減につながるほか、オペレータパックを通信事業者ごとに切り替えることで、端末の横展開が可能になります。
――今後は、キャリア主導のエコシステムとiPhoneやAndroidなど垂直統合モデルの主導権争いになるのでしょうか。
鎌田 どちらか一方だけというのではなく、両者がすみ分けるようになると思います。
iPhone発売以降、当社には「iPhoneのような先進的なUIの端末を作りたい」という顧客からの要望が多く来ています。実際、ALPをベースに、斬新なUIのスマートフォンの開発も進んでいます。ぜひ、楽しみにしておいてください。