野村総研の武居氏の講演から、前編と中編では(1)製品・サービスの付加価値向上、(2)アフターサービスの充実、(3)オペレーションの改革の3つを目的に、世界的な大企業などがすでに実際にIoTをビジネスプロセスの中に組み込んでいる現状を紹介した。
ただ、その一方で、企業が現実にIoTに取り組もうとすると、次の課題が立ちはだかると武居氏は指摘する。「IoTには初期投資やネットワークコストなどのランニングコストがかかるが、それに見合う収益をどう生み出していくか。現状、モノをネットワーク化するだけで収益を実際に出せるかというと、やや難しいところもある」
単に自社製品・サービスをネットワーク化するだけでは、収益化は簡単ではない。その先のビジネス拡大も見据えてIoTを検討する必要があるというのだ。
IoTビジネス拡大の2つの方向性
ビジネス拡大の方向性としては、大きく2つあるという。
1つは「蓄積されたデータの活用によるサービスの高度化」のベクトルだ。
「自社の製品・サービスをネットワーク化することで、モノからのデータがどんどん蓄積されてくる。その貯まったデータをより高度に分析することで、例えば故障の予測やメンテナンスの自動化など、サービスの高度化を図ろうという方向性だ」
蓄積されたデータの活用によるサービスの高度化の例 |
もう1つは、「他社製品・サービスとのリアルタイム連携」のベクトルである。武居氏はネットワーク化された歯ブラシを例に、このリアルタイム連携について説明する。
「ネットワーク化された歯ブラシのことを聞いて、おそらく『おもちゃだよね。これで実際にビジネスできるの?』と思われた方がいただろう。私も『面白いけど、これはビジネスとは違うよな』と正直思った」。IoT関連の製品・サービスには、歯ブラシに限らず、こうしたオモチャのような類が少なくない。
こう前置きしたうえで、「でも、ちょっと見方を変えてほしい。歯磨きの頻度や磨いている場所などのデータを、離れたところで活用すると何が起こるのか」と武居氏は続ける。
例えば、幼稚園・保育園といった教育機関や地域の歯科医院などと連携することで、より充実した歯磨きの指導サービスが可能になる。「異業種を含む他社と連携すると、サービスの幅が拡がってくる」のだ。
ネットワーク化された歯ブラシによる他社連携の例 |
そして、こうした連携の方向性をさらに推し進めていくと、いわゆる「エコシステム」の考え方に辿り着く。多種多様なパートナーと連携、共存共栄しながら、自社だけでは獲得できない機能や市場を獲得していこうという考え方だ。