IoT/M2Mで“未来の製造業”へ
では、IoT/M2Mでどんな価値を生み出せるのか。そのヒントとして稲田氏が紹介したのは、バリューチェーン全体の最適化への活用だ。
例えば、製造業。「日本の製造業は効率的だと皆さん思っているが、そうではない」と稲田氏。生産現場だけを見れば確かに部分最適化が進んでいるかもしれないが、企画から流通までのバリューチェーン全体で見ると、決して効率的ではないという。「一例を挙げると、日本の家電には使わない無駄な機能がたくさん付いているが、IoT/M2Mを利用すれば、どの機能が不要なのかがすぐ分かる」
世界最大の消費財メーカーであるP&Gでは、被験者にセンサーなどを取り付け、消費者が商品を選ぶ瞬間や使う瞬間の心拍数や発汗状態、目や手の動きを把握。これを分析することで、商品の企画やマーケティングなどに生かしているという。稲田氏は、企画から流通までの「バリューチェーン全体で最適化を考えるのが、未来の製造業」とし、そのためにIoT/M2Mを活用すべきだとした。
目指すべきは1企業にとどまらない、サプライチェーン全体の最適化
さらに稲田氏は、こうしたバリューチェーンの最適化を1社だけではなく、サプライチェーン全体で考えていくことの重要性を訴えたうえで、「そのためにはデータがないといけない。そのデータを取るのがIoT/M2Mだ」とした。
これを説明するために稲田氏が用いたのが、北海道から航空便で輸送されるとうもろこしの話。「航空便と聞くと我々はおいしいイメージを抱くが、北海道で食べるとうもろこしのようにはおいしくはない。それはなぜか」
とうもろこしの最適貯蔵温度は0度前後。収穫後、真空冷却されて冷蔵トラックで出荷される航空便のとうもろこしだが、飛行機内では冷蔵設備がないために温度が上昇。さらに飛行機が目的地に到着後、冷蔵トラックを待っている間も、適正な温度管理が行えない。そして、卸売や仲卸でも同様である。
「なぜ、こうした状態になるかというと、おいしさは見えないから」と稲田氏。IoT/M2Mで取得したデータなどを利用し、おいしさを見える化していくことが、関係各社の気付きとサプライチェーン全体での最適化につながるとした。
そして最後に稲田氏は、「成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと。何もしなければ、データが取れず、変化も分からない。重要なのは経営者のリーダーシップと、失敗を『Nice Try!』と許容する組織風土の醸成だ」とエールを送って講演を終えた。
稲田氏の基調講演を熱心に耳を傾ける聴講者たち。どのセッションも会場は満員だった |
このほかの講演や展示コーナーも大盛況
基調講演に続いては、日本IBMの鈴木徹氏、日本HPの山本幸治氏、アドバネットの橋本武氏、ボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパンのハロネン・ティモ氏と阿久津茂郎氏、エコモットの入澤拓也氏、インヴェンティットの目黒学氏、ウインドリバーの石川健氏、PTCジャパンの成田裕次氏、ジョリーグッドの上路健介氏、インテルの安齋尊顕氏がそれぞれIoT/M2Mの最先端動向などについて講演した。
また、展示コーナーでは、日本IBM、日本HP、ボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパン、アドバネット、インヴェンティットの5社が、自社のIoT/M2Mソリューションを紹介。
講演・展示ともに多数の来場者で賑わい、IoT/M2Mビジネスの盛り上がりを大いに感じさせるイベントだった。
展示コーナーにも大勢の人が詰めかけた |