【日本医科大学千葉北総病院】ドクターヘリで現場急行、スマホで患者の状態を撮影しスピーディに情報共有

救急医療活動は一刻を争うだけに、患者の情報を迅速かつ正確に伝えることが重要だ。千葉北総病院では、現場の医師の手を煩わすことなく映像を簡便に伝送できるシステムにより成果をあげている。

医療無線と比べて情報伝達時間が15分短縮

千葉北総病院救命救急センターでは従来、ヘリで患者を搬送中、医療無線を使って病院との間で情報共有を行っていた。しかし、医療無線は一方通行の音声通信で、詳細な情報を伝えることが難しい。しかもヘリの運航上のやり取りにも使われるので、到着の約5分前にようやく病院側に患者の情報が伝わるという状況だった。

その後、本村医師はある通信キャリアと共同で映像伝送システムの実証実験を行い、2012年10月に京都で開催された救急医学会で発表した。

実は、そのシステムは本村医師らの一番の要望である「遠隔起動」に対応していなかったうえ、映像で現場の状況を把握できる「接続率」が70%程度にとどまっていた。学会に参加していたドコモ関西支社の関係者が「何かお役に立てるのではないか」と声をかけたところ話がまとまり、2013年1月からシステムの開発に着手した。

ドコモでは遠隔起動の手段として当初、GPSによる位置情報やグーグルのメッセージングサービスも検討したが、誤差や遅延が発生するという理由から断念し、「最終的にSMSという“枯れた”技術に行き着いた」(ドコモ関係者)という。

同年4月にシステムが完成、6月から約半年間、実証実験を行ったところ、搬送先の病院への患者の情報伝達が到着の19分前と、医療無線に比べて15分も短縮。また、接続率も90%と、他キャリアのシステムの70%を大きく上回ることが確認された。

実証実験の期間中、医師とドコモ関西支社および千葉支店の担当者が月1回のペースで意見交換会を開き、細かな改良を加えていった。

その1つが、管理室だけでなく医局や初療室など院内の複数箇所からタブレットで現場の情報共有や、映像伝送の開始・終了の操作を容易に行えるオリジナルアプリ(QuickSend SMS)を開発したことだ。これにより、管理室のスタッフだけでなく診療関係者全員が同じタイミングで情報を共有できるようになった。

また、ドクターヘリの運航は朝8時半から日没までの間だが、バッテリーが半日しか持たない、という不満も聞かれた。そこで、映像伝送を終えるとアプリの動作も強制終了するようにして持ち時間を長くした。

今年2月の本格導入以降、接続率は95%程度まで高まっている。千葉県内にはヘリの離着陸地点が約1000カ所あるが、ほぼ確実に接続できる状況だ。

日本医科大学千葉北総病院のドクターヘリ
日本医科大学千葉北総病院のドクターヘリ

他方、課題も残されている。

このシステムが現場で本当に効力を発揮するのは重症患者の症例であり、20件に1件程度だ。「そういうときこそ、スマートフォンに触れる余裕がまったくない」と本村医師。ところが、カメラは医師の胸の位置で固定されており、しかも医師本人はアングルなどを意識していないため、常に患者を映し出せるわけではない。ドコモでは、魚眼レンズなどを使って救急医療活動に支障を来さず広角に撮影する方法を検討している。

本村医師は、映像の録画機能を使い、症例検討会や若手スタッフの教育にも活用していく。さらに、救急隊や隣接する茨城県にも導入を進め、将来的には全国展開を目指している。

月刊テレコミュニケーション2014年7月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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