――「格安SIM」のヒットでMVNO(Mobile Virtual Network Operator)が改めて注目されています。通信料金の高止まりや行き過ぎたキャッシュバック競争などで携帯電話3社に非難が集まるなか、低価格でスマートフォンが利用できることからMVNOがクローズアップされているわけですが、この製品を2010年に初めて市場投入したのが日本通信でした。
三田 ネットワークが開放されていることを理解してもらうために、それまで携帯電話の中に隠れていたSIMを売り始めました。「SIMって何?」から始まり、パッケージをデザインし、どのような仕組みで、どのように販売するか、ゼロからのスタートでした。
そして、我々に追随する形で各社が参入し、SIM市場は急速に拡大しています。新しいこと、これから形成されることを言葉で信じてもらうのは難しい。まずやってみせる、というのが僕の長年のやりかたです。
――日本通信のSIMは大手スーパーのイオンが力を入れて売っています。
三田 今までも直販サイトや販売代理店を通じて家電量販店でも売られていたのですが、SIM製品は大手流通企業と直接組んで展開するようにしたのです。イオンはその第一弾で、現在は家電量販のヨドバシカメラ、EコマースのAmazonにもイオンと同様に特別仕様の製品を提供しています。これらの会社にとっても魅力的な商材になっているのだと思います。イオンでは4月からLG製の端末とSIMを組み合わせた「イオンのスマートフォン」の展開も始まりました。
レイヤ2接続で格安SIMが実現
――格安SIMを展開しようと考えたのはなぜですか。
三田 動機はいくつかあるのですが、1つは携帯電話事業者がやらない、MVNOでなければできないサービスを実現したかったということです。それともう1つ、これをMVNO業界発展の起爆剤にできるのではないかという思いもありました。
当社は2006年にNTTドコモに対して相互接続による回線提供を求め、2007年に総務大臣の裁定を得て、2008年にドコモの3G網とレイヤ3(IPレベル)での接続を実現しました。並行して総務省とお話しをさせていただき、2007年の「改訂MVNO事業化ガイドライン」にMVNOが通信事業者と相互接続できることが明記されました。
――「卸売」だけでなく、相互接続が可能になったのは画期的なことでした。
三田 そうです。相互接続は通信事業者間の公正競争条件を担保するために作られた制度で、ドコモのように一定以上のシェアや設備を持つ通信事業者(第2種指定電気通信設備設置事業者)には、他の事業者からネットワークの接続を求められた場合に接続義務が課されています。接続料金にも「原価+適正利潤」という縛りがかかります。もちろんサービス内容について事前に接続先の事業者の了承を得る必要はありません。
これに対し、MVNOへの回線提供形態で一般的だった卸売では、料金決定権は事実上キャリアにあります。携帯電話事業者が事前にMVNOからサービス内容を聴取して、自社と競合する恐れがあると考えたら回線提供を拒否することもできます。これではMVNOが多様なサービスを提供するのは困難です。
MVNOが相互接続で回線を調達すればこの状況は一変します。しかし、ガイドラインができても相互接続でドコモと接続するMVNOは当社以外には出てきませんでした。
――ドコモがMVNOを「卸売」に誘導するような施策を進めたと。
三田 そうです。同時にMVNO側にもドコモと事を構えたくないという意識が強かったのではないでしょうか。でも、これではMVNOは本来の役割を果たすことはできません。
そこで「モバイルネットワークは完全にオープンになっている。それを活用すれば有望な事業が展開できる」ことを日本通信が示すことで、状況が変えられないかと思ったのです。
格安SIMはネットワーク側の制御で通信速度を数百kbps程度に抑えることで帯域を多くのお客様に使っていただき、月1000円といった安価な料金を実現したものです。携帯電話事業者にとっては月6000円のLTE回線が売れなくなりますから、やりたくないと思いますが、お客様には非常に喜ばれています。
これを実現するにはIPより下位の「レイヤ2」で接続する必要があるのですが、相互接続でないとこれは認められません。当社は2009年にドコモとレイヤ2接続を行い、翌年SIM事業をスタートさせました。