SPECIAL TOPICWi-Fi・ベストエフォートでも放送品質 クラウド化を加速させるMoIP技術

放送システムのIP化技術「MoIP(Media over IP)」は進化を続け、放送業界のイノベーションが加速している。「Inter BEE」の「IP PAVILION」においても“クラウド時代”の放送制作設備の在り方を模索しているが、ソニーマーケティングとファーウェイは、中継設備をWi-Fiで置き換えるPoCに成功した。

実環境下で重ねたPoCがクラウド時代の“現実解”を提示

こうした課題解決の手がかりになったのは、ソニーマーケティングとファーウェイが2025年に実施した複数のPoC(概念実証)だったという。両社は、放送品質を担保できるネットワークの選択肢を広げることを目的に、現場で検証を重ねてきた。

代表的な事例が「博多祇園山笠」である。福岡市中心部の繁華街・天神を1km以上にわたり山笠(山車)が駆け抜ける祭りだが、道路事情からケーブル敷設が困難で、混雑により公衆回線の利用も難しく、従来は録画中継が中心だった。ここで採用したのがWi-Fiメッシュによる中継である。山笠の走路をファーウェイ製の屋外用アクセスポイント(AP)「AirEngine」でメッシュネットワーク化し、撮影映像を5GHz帯Wi-Fiで中継拠点のAPへ伝送。そこからはIP PAVILIONにも回線を提供した輝日の回線で放送局へ送り、生中継でも問題なく運用できることを検証した。

ファーウェイの屋外用Wi-Fiアクセスポイント「AirEngine 5761R-11E」

ファーウェイの屋外用Wi-Fiアクセスポイント「AirEngine 5761R-11E」

指向性アンテナ

指向性アンテナ

この構成の要となるのが、ソニーのメディア・エッジプロセッサー「NXL-ME80」だ。HEVC圧縮により限られた帯域でも高画質・低遅延を両立できる。信号の入出力には同軸ケーブルを使う既存のSDI(Serial Digital Interface)から、次世代IP伝送規格であるSMPTE ST 2110まで幅広いインターフェースに対応する。PoCでは、ビットレートを18Mbpsに設定した映像がFPU(放送用無線伝送装置)を上回る高画質で伝送でき、遅延もバッファー調整によりFPU同等に抑えられた。

ソニー メディア・エッジプロセッサー「NXL-ME80」

ソニー メディア・エッジプロセッサー「NXL-ME80」

もう1つの事例「2025びわ湖大花火大会」では、琵琶湖の湖上に打ち上げられる花火を撮影して対岸の放送局舎に伝送する際に同様の構成を活用した。指向性アンテナを利用し、見通し約1kmの距離を5GHz帯のメッシュWi-Fiで接続した(図表)。

図表 「2025びわ湖大花火大会」の接続構成と設置状況

図表 「2025びわ湖大花火大会」の接続構成と設置状況

放送用無線で必要になる免許や厳密な方向調整が不要で、設置も容易なWi-Fiの利点は大きい。池田氏は「ネットワークの専門家でなくても扱えます」と語る。放送用無線の約10分の1という低コストも魅力だ。最近はWi-Fi機器の電波の到達性や安定性が大きく向上し、放送用途に求められる品質にも応えられるようになってきたという。

もっとも、Wi-Fiはパケットロスやジッターが避けられない。そこでNXL-ME80の処理能力が貢献する。当初はインターネット回線やローカル5Gを利用した伝送向けに設計されたものだが、このPoCによりWi-Fi環境でも圧縮処理とバッファー制御を最適化し、映像の破綻を抑えつつ低遅延で伝送を実現できると検証できた。

Virtuosoを活用し既存設備でもMoIP実現

こうしたPoCから見えてきたのは、高価な専用線やFPUに依存しなくても、ベストエフォート型を含む多様な回線で放送品質を確保できる可能性である。実際にIP PAVILIONでは、東陽町メディアセンターと幕張メッセ間の回線、および在阪局・渋谷サテライトステージやAWSとの接続を、NTTドコモビジネスの「IOWN APN」を主軸に輝日の「Infal」10Gベストエフォート閉域網回線や専用線、ソニービズネットワークスの 「NURO閉域アクセス」帯域確保型1Gbps閉域網回線など、複数のそれぞれ特徴のある回線を併用した。

そしてIP PAVILIONのAWS連携で重要な役割を果たしたのが、ソニーの子会社であるNevion社のソフトウェアベース IPメディアノード「Virtuoso(バーチュオーソ)」だ。放送に必要な変換に対応するソフトウェアを多数備え、ハードウェアを変えずに機能を切り替えられる点が特長だ。

ソニー(Nevion) IPメディアノード「Virtuoso」

ソニー(Nevion) IPメディアノード「Virtuoso」

既存の映像制作設備にVirtuosoを組み込めば、パケットロスのある回線でも拠点間・クラウド間伝送が現実的なものになる。ソニーマーケティングの高木大輔氏は「Virtuosoは映像の相互伝送性を確保する装置であり、クラウド活用を既存設備で実現する際のキーになります」と話す。なお、SMTPE ST 2110は回線のパケットロスを許容しないため、SRTで用いられるFEC(誤り訂正符号化)とARQ(自動再送要求)による補正も重要な役割を担う。

「こうした構成によって、拠点間伝送やクラウド間伝送の回線の選択肢が大きく増えます」と高木氏。専用機から汎用機という、各分野で進む潮流は放送分野にも広がりつつある。MoIP化の進展が、放送制作の自由度と可能性を高めていく。

<お問い合わせ先>
ソニーマーケティング株式会社
業務用商品購入相談窓口
TEL:0120-580-730
専用フォーム:https://www.sony.jp/professional/inquiry/

華為技術日本株式会社
TEL:03-6266-8008
E-mail:nwsupport@huawei.com

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