先行導入例から探るユニファイドコミュニケーションの実態 Part1【アンリツ】口コミで広がるユニファイドコミュニケーションの輪

コミュニケーション環境の改善に取り組む企業は、どのような狙いを持ってそれを始め、実際にどのような効果を上げているのだろうか。3つの先行事例からUC導入のポイントを探る。

業務効率改善の観点からユニファイドコミュニケーション(UC)を導入するのは容易ではない。コミュニケーション環境を改善したいと望みながらも、最初の一歩が踏み出せない企業は多いことだろう。

現にコミュニケーションの効率化に取り組んでいる企業は、どのようにしてその壁を破り、実際にどのような効果を上げているのだろうか。UC先行事例の実情を3回にわたりレポートする。今回紹介するのは、電子計測器や通信機器などを製造するアンリツのケースだ。

導入目的は実は「Web会議の活用」

マイクロソフトのユニファイドコミュニケーション基盤「Office Communications Server 2007」(OCS2007)をリリース前の07年秋からテスト導入し、08年4月から本格運用を開始したアンリツ。経営情報システム部インフラソリュー ションチームの篠原雄二課長によれば、主目的はいわゆるUCの実現ではなく「Web会議の活用」だったという。

国内外に複数の拠点とグループ会社を持ち、拠点間のコミュニケーションが頻繁な同社では、かねてよりPC上で手軽にミーティングができるWeb会議へのニーズが高まっていた。いくつかの製品を比較検討した上でOCSを選んだ理由は「グローバルなサポート体制」。「正直に言えば、使い勝手やコストパフォー マンスに優れた国内の製品は他にあった」と篠原氏は当時を振り返る。

アンリツ 経営情報システム部 インフラソリューションチーム 課長 篠原雄二氏 アンリツ 経営情報システム部 インフラ ソリューションチーム 鈴木政志氏
アンリツ 経営情報システム部 インフラソリューションチーム 課長 篠原雄二氏 アンリツ 経営情報システム部 インフラソリューションチーム 鈴木政志氏

それとほぼ時を同じくして、アンリツでは老朽化した電話システムの更改も行っていた。従来は拠点ごとにPBXを配置していたが、08年8月に、本社拠点に 導入したNECのSIPサーバー「UNIVERGE SV7000」を核としたIPセントレックスシステムを稼働。拠点間の通話をIP網によって内線化した。

同社の電話システムはこの更改以前から、固定電話をほとんど使わずPHSをメインにしている。部署ごとに代表電話を受けるPHSが置かれ、それが鳴るとメ ンバーがピックアップする。社員のモビリティを妨げず、またオフィス内の配線を無くすのがその目的だ。IPセントレックスでもこれを踏襲。さらに、 OCS2007とSV7000を連携させ、PCクライアントであるOffice Communicator(OC)とPHS間の通話も可能にした。

「以前からPHSを使ってきたが、コミュニケーションのスタイルは人によってさまざま。ずっと机から移動せずに仕事をする人にはPHSは使いづらい。複数の手段を用意して相互につなげることで、コミュニケーションを充実したものにしたかった」と篠原氏は語る。なお、一連の更改を前に電話システムの管掌も総務から情報システム部へと引き継がれていた。これも、OCSとSV7000の連携が可能になった要因と言えよう。

自然に増える“利用希望者”

アンリツのOCS2007運用のユニークな点は、ユーザーへのライセンス配布方法にある。通常は、全社一斉に利用を開始したり、あるいは特定の部署から利 用をはじめ、その後部署単位でユーザーを拡大していくのが一般的だ。だが同社では、最初に数十人で小規模にスタートした後、その他の社員については、社員の自発的な利用希望申請に基づいてOCをインストールする形を取っている。

「自ら『Web会議で効率を上げたい』と望む人に使ってもらえるから導入効果が上がりやすい。効果を実感しながら派生的に広がっていくから、ライセンス費 のムダもなくなる」と篠原氏。ユーザーは関連性の強い他の社員にもOCSの導入を勧め、またその効果が同僚などに伝わって、さらにユーザーが増える。図表のように順調に増加を続け、営業や開発部門を中心に、現在では全社員の約3分の1にまでその輪が広がった。

図表 アンリツのOCSユーザー数(国内)の推移
図表 アンリツのOCSユーザー数(国内)の推移

ここで、当初は想定していなかった効果が現れ始めた。昨年実施した実態調査の結果を分析したインフラソリューションチームの鈴木政志氏によれば、「Web 会議だけでなく、想定した以上に電話発信にもOCが使われている」という。もともと存在していた社員間のつながりを通じてOCが広がっていくため、クリッ クトゥーコールやプレゼンスの効果が、あえて説明せずとも自然に体感できる状況になっているようだ。

当初見込んだWeb会議による出張コストの削減効果だけでなく、社員へのアンケート調査ではコミュニケーションの効率が確実に上がっていることが分かると いう。特に「相手がどこにいても会議ができることを評価する声が多い」(鈴木氏)。外出中でもノートPCさえあれば、社内のメンバーとプレゼンスを確認し合い、すぐにミーティングが開始できる。また「ビジネスアワーが異なる海外拠点のプレゼンスが見れるのも、コミュニケーションの円滑化に役立っている」と も篠原氏は語っている。

次回は、会員数200万人超の人気アパレル通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイのケースを紹介する。

[Part2] 【スタートトゥデイ】マイクロソフトOCSの導入で柔軟なワークスタイルが可能に
[Part3] 【帝京大学医学部附属病院】デュアル端末でモバイルUC

月刊テレコミュニケーション2010年5月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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