スイスは近年、「イノベーション大国」として、最新のIMD世界競争力ランキングで世界1位に返り咲き、世界デジタル競争力ランキングでも毎年上位に評価されているなど、欧州において、最もデジタル競争力が高い国の1つである。
本年2月、AIを推進する主要省庁の1つである連邦環境・交通・エネルギー・通信省連邦通信庁(OFCOM)は、AIに関する規制アプローチとして、基本的な考えをまとめたレポートを連邦内閣に提出した(「Overview of artificial intelligence regulation」)。
AIは近年、急速に発展しており、ChatGPTなどの生成AIアプリケーションが広く利用可能になったことで広く社会的な関心を呼んでおり、イノベーション拠点としての地位の確立を目指すスイスにとり、AIは様々な機会を提供してくれる一方で、同時に、AIに基づく意思決定の透明性やガバナンスなど新たな法的課題も生じている状況にある。EUでは、これらの諸課題に対応するため、欧州評議会のAI条約やEUのAI法など新たな規制枠組みが策定された。
他方、スイスには、AIを規律する包括的な法律の枠組みはまだ策定されていない。このようなスイスにおけるAIの開発・推進と利用のための規律的な枠組みをどのように適応させていくべきか課題が生じていることなどを背景として、2023年11月、連邦内閣は、関係省庁に対して、AIに対する可能な規制アプローチを検討するよう指示した。
今回、公表された本報告書は、このような背景を踏まえて、スイスにおけるAIに関する規制アプローチの基本的な考え方をまとめた内容となっている。本報告書では、規制アプローチの主要な目標として次の3点を掲げている。(1)スイスをイノベーションの拠点として強化、(2)経済的自由を含む基本的な権利の保護、(3)AIに対する国民の信頼を強化。これらの目標を達成するための3つの規制アプローチとして、(1)テーマ別・分野別の規制の取組を継続、(2)最低限の実施、またはより広範な実施を伴う欧州評議会AI条約の批准、(3)AI条約の批准及びEUのAI法に沿った実施を掲げている。
AIの開発・推進と利用のための取組に対するスイス国内での関心が高まる中、本年7月、スイス連邦内閣は、2027年のグローバルAIサミットのスイス開催を表明する報道発表した。本サミットは、2023年のAI安全性サミット(英国)、2024年のAIソウルサミット(韓国)、本年2月のAIアクションサミット(仏)から続いているAIグローバルイベントの1つである。同報道発表において、レシュティ連邦環境・交通・エネルギー・通信大臣は、AIに関する国際的な動向や議論に関心が高く、AIサミットの第一回会合、本年パリで開催された会合に参加し、会合での議論やAIに関する議論の国際的な関心の高まりを踏まえて、将来このようなサミットをスイスで開催する意向を示していたとのコメントを伝えている。
EUはAIを規制するアプローチを取っているが、他方、スイスは、イノベーション拠点であり、スタートアップ企業も非常に多く、規制を全面的に出すとスイスのユニークな特性が活かせなくなる懸念もあり、過度な規制とならないよう、スイスはEUとは違うアプローチを模索していると考えられる。グローバルAIサミットのスイス開催は、スイスのAIに関する独自のアプローチを示す機会でもあり、EUの規制アプローチに沿った政策を進めていくのか、スイス独自のAI政策を貫くのか今後のスイスのAI発展に向けた取組を注視していきたい。
※本稿は、筆者の個人的見解である。














