顧客への迅速なレスポンスが可能に
iPhone 5、iPadの活用はまず、外出の多い営業担当者から始まった。愛媛県松山市に本社を置く佐川印刷のサポートエリアは広く、顧客のもとまで車で1時間以上かけて移動することも多い。そうしたエリアでの営業活動や制作物の顧客チェックに、スマートデバイスは活躍した。
紙だけにとらわれず、あらゆる媒体を活用してコミュニケーションを支援するため、取り扱い商品のラインナップも膨大な数にのぼる。それらすべてのパンフレットを持ち歩くのは困難だが、iPadならデジタル化したパンフレットを片手で持ち歩くことができる。
制作段階においては、「顧客から受けた修正依頼やコメントを制作物に書き込み、撮影して制作チームへと即座に送信。すぐに修正作業に取り掛かれるようになり、制作に要する時間を短縮できている」(佐川印刷 ネットワーク管理者 経営管理チーム 徳田哲郎氏)という。
メールを含めたコミュニケーションの密度も高まり、スマートデバイスの導入は顧客からも好感を持って迎えられている。特に、見積もり作成やデザイン確認のレスポンスが向上したことが歓迎されているようだ。
デジタルパンフレットの活用や、デジカメを使った現場からの原稿修正指示は、以前使っていたノートPCでもできないことではない。しかし、起動に時間がかかり、通信を確立してファイルを送信するというだけのために多くの操作を必要とするノートPCでは、スマートデバイスのような手軽さも携帯性も実現できず、活用は広まっていなかった。
「iPhone 5もiPadもすぐに使えて、必要な要件だけを短時間で済ますことができる。しかもUIが非常に優れていて、ITの理解度に関係なく使いこなせるので社内の普及も早かった」(佐川氏)
Apple TVとの連携など社内にも広がる活用
顧客に対するメリットばかりではなく、社内のコミュニケーション活性化にも、iPhone 5やiPadは活用されている。同社が以前から利用しているサイボウズにアクセスすることで、メール、スケジュール、ワークフロー、設備予約を社内外のどこからでも利用できるようになった。緊急の案件は外出先からでも決裁でき、支払や請求処理が必要なものは自動的に経理部門にも共有されるので、情報共有も早い。
こうした社内システムとの連携において気になるのはセキュリティだが、iPhone 5とともにMDM(モバイル端末管理)製品により、その不安も払拭できているという。
またiPhone 5やiPadが活躍するのは、決して社外だけではない。社内でのちょっとしたコミュニケーションや、会議にもこれらのデバイスはフル活用されている。
その一例として紹介したいのが、Apple TVを使ったペーパーレス会議だ。パワーポイントなどを使ってプレゼン資料を作るのは一般的な会議と変わらないが、その資料をPCを使ってプロジェクターに投影するのではなく、Apple TVを介して大画面モニタに映し出して会議を行なっている。
プレゼン資料を無線LANで送信、会議室に設置したApple TVを使って大型モニタに投影しながら会議を行なっている |
Apple TVは家庭向けのエンターテインメント色が強い機器だが、iPhone 5やiPadから簡単な操作で映像を映し出すことができるため、大勢で1つの映像を手軽に共有する会議のようなシーンにも向いている。しかもその際、iPhone 5やiPadとApple TVは同じ無線LANにつながってさえいればよく、複雑な認証等も不要。
もちろん、会議資料は印刷せず、会議参加者にメール等で配布することでペーパーレス化も実現している。
こうした独自の取り組みについて佐川氏は、「せっかくスマートデバイスを持っているのに、プロジェクター等に有線で接続するのはナンセンス。アップルが示す未来像の中から、自分たちに使えるものを選んで積極的に取り入れ、業界の先駆けとなるべき」と語る。