人材不足の一因は「参入障壁が非常に高い」
このような日本の状況を共有したうえで、主任である森川教授、構成員の堀越功氏(日経BP 日経ビジネスLIVE 編集長)、黒坂達也氏(企 代表取締役、慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任准教授)から提示された話題に基づいて意見交換が行われた。
森川主任は、ワイヤレス分野の重要性と課題について説明。すべての産業で生産性向上に資する社会基盤であるとしたうえで、「民生利用のみならず、防衛利用でも極めて重要な分野だ」と指摘した。
また、「世界情勢の不安定さに鑑みれば、安定的なサプライチェーンの確保に向けて、無線技術分野での自律性の確保と向上が重要」とワイヤレス技術の重要性を強調。そのうえで、人材およびサプライチェーンの2つの観点で、日本が抱える課題を整理した。
人材不足については、若年層にとっての魅力低下と技術継承の困難化、教育・研究環境の弱体化を課題として挙げた。また、「通信機器のソフトウェア化が進むなかで、ソフトウェア人材の不足が懸念される」とも指摘。人材が集まる「WebやAIといった分野に比べて、(ワイヤレス分野は)参入障壁が非常に高いことも課題だ」としたうえで、裾野を広げる仕掛けとしてライブラリやクラウド快活環境の充実、オープンソース化などを挙げた。
ワイヤレス人材の裾野拡大に向けた取り組み案(森川氏の投影資料より)
もう1つのサプライチェーンについては、グローバル通信機器ベンダーの寡占化によって国内技術基盤が弱体化しつつあるとしたうえで、「日本の強みである素材や部品の製造者と、通信事業者や最終製品事業者との間での協業・連携が、諸外国と比べて薄いのではないか」とも指摘。また、通信設備工事作業員の高齢化と後継者不足が深刻化していることも強調した。
5年以内に通信機器ベンダー消失も?
堀越構成員は、日本の通信機器ベンダーの厳しい現状について報告した。世界最大級のモバイル技術展示会であるMWC(Mobile World Congress)における日本企業の展示規模が年々縮小していることを例に挙げたほか、「日本の期待が高かったOpen RAN市場も停滞している」と指摘した。
また、NECや富士通といった国内主要ベンダーは、DX事業へのシフトにより全体業績は好調だが、通信分野はインスタンマーク(収益性が低い部門)となっているとし、このままでは日本の通信機器ベンダーが5年以内に消滅する可能性さえあると強い警鐘を鳴らした。「日本で培ってきたノウハウがなくなってしまう。人材が育てられなくなってしまうという点が、非常に大きな課題だ」
対策としては、事業構造の変革、合併再編等が必要としたうえで、「勝てる分野を見定めて開発投資を進めるべき」とし、NTN(非地上系ネットワーク)やミリ波をその候補に挙げた。