RAN改善にAIをどう使う?
5Gまでと同様に、周波数の利用効率を高めるための技術進化も継続される。標準化前のため、現時点で導入が確定しているものはないが、例えば5GにおけるMassive MIMOのような目玉技術は現時点では存在しない。6G RANの性能アップは、小幅なゲインをもたらす複数技術の積み重ねで性能を高めるアプローチになりそうだ。
そうした中で期待が集まるのが、AIである。AIを使っても、無線伝送の物理的な性能を高めることはできないが、周波数利用効率を最適化したり、高度かつ複雑な計算を伴う無線設計に使うことで、限界まで無線性能を引き出すことができると考えられている。
標準化が進行中の5G-AdvancedでAIの適用はすでに議論されており、6Gでも当然継続される。北添氏によれば、AI/ML技術が適用できるものとして、次のような領域が考えられるという。
1つがチャネルモデリングだ。電波が伝わる際の減衰や歪み、干渉などの変化を数学的にモデル化することは、無線方式を作ったり運用する際のベースとなる。この難しい作業にAIを使う。また、ミリ波のビームフォーミングのような複雑な処理に適用するアイデアもある。デバイスの位置やビームの状態変化を予測して適切なビームを選ぶ動作にAIを適用することで処理遅延を減らしたり、シグナリングのオーバーヘッドを削減することでエネルギー効率を高められる可能性があるという。
AIが6G無線を設計
直接的にデータ伝送の効率化を目指す研究開発もある。AIの大きな可能性を感じさせる代表例が、NTTとNTTドコモがノキアらと共同で開発する「AI-Native Air Interface」、略して「AI-AI」だ。
最新の実験例が図表2だ。無線伝送では通常、データ送受信の際にチャネル情報やタイミング等の情報を伝えるパイロット信号が送られる。ドコモらが行った実験では、送信・受信側で協調して学習したAIに処理を代替させることで、このパイロット信号なしの伝送に成功した。
図表2 AI活用による電波環境に合わせた無線インターフェースの実験(AI-AI)
トラック輸送に例えると、ドライバーと操縦席(パイロット信号)が不要になるので、そのスペースにも荷物(データ)を積んで運べるようになる。これにより、通常の5G伝送と比べて、屋内の静的環境で18%、低速移動環境下で16%も通信効率が向上した。数%のゲインを積み重ねて性能を高める無線伝送の世界で、このメリットは非常に大きい。
無線インターフェースにAIを活用する研究はまだ端緒についたばかりで、そのポテンシャルは未知数だ。通常の無線伝送は、送信・受信側でいくつもの処理を連続で行うが、これまでは処理ブロックごとに処理効率を改善し、その積み重ねで性能を高めるしかなかった。
だが、深層学習の手法を導入することで、ブロック単位で処理をAI/MLに置き換えるだけでなく、複数ブロックをまとめてAI/MLに代替させることが可能になるという。さらには、学習を重ねたAIに無線インターフェースの一部を設計させることもできる。上記のパイロットレス伝送は、その成果だという。
AIがどのようなプロセスで無線インターフェースを設計したのかを人間が完全に理解できないという点に懸念は残るものの、AI-AIは、RANの性能を飛躍的に高める可能性を秘めている。