M2M最前線(ネットワーク編)――有線・無線を上手に組み合わせ、e-SIMの動きにも注目

このレポートではデバイス、ネットワーク、アプリケーションの3つの切り口から3回連続で、M2M市場の拡大に向けた最新動向をお伝えする。第2回は「ネットワーク編」だ。

M2Mのネットワークについては、(1)複数の通信方式の組み合わせと、(2)料金プランの多様化がキーポイントになる。

移動する機器でも利用できる携帯/PHS網はM2Mに適している。だが、その通信料金がビジネスモデルを成立させるうえで障害になることが少なくない。単価が高い業務用機器、自動車や建設機械などの移動を前提としたモノを除けば、固定回線もM2Mの有力な選択肢となる。

また、固定/移動網の終端装置――ホームゲートウェイ(HGW)やモバイルルーター等――の先でWi-FiやZigBee等を用いて機器のデータを収集する方式も有用だ。複数機器のデータを一旦HGW等に集めてから固定・移動網で送信することで、機器1台当たりの通信単価を抑えられる。

「M2M市場は、モバイルとそれ以外の通信手段が補完しながら伸びていく。さまざまなアクセス手段を統合的にサポートする必要がある」と話すのは、富士通 ネットワークサービス事業本部 ネットワークフロントセンター ビジネスプロモート部長の大澤達蔵氏だ。

M2Mで通信に求められる要件は技術的にもコスト的にも幅広い。「ダイバーシティ(多様性)ありきで、多くの方式をいかにシンプルにつなげるか。そこでFENICSⅡM2Mサービスの価値を訴えていきたい」という。

モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)で普及促進副委員長・ベンチャービジネスWG・モバイルM2M-WG主査を務める瀬口弘晴氏も、多様な通信手段を統合的に活用できるようにすることの重要性を説く。「本来なら統一されることが望ましいが、難しい。どれを使っても差異が生じないようにすること、そして、ユーザーが目的に応じて最適な通信手段を選べるような指針を与えることが重要になる」

KDDI ソリューション事業本部 コンバージェンス推進本部 モバイルビジネス営業部長の山口明彦氏も、この“組み合わせ”で強みを発揮したいと考えている。同社は、モバイル網だけでも3G、LTE、WiMAXと複数の方式を持つ。「お客様の目的と送受信するデータ量に応じて使い分けられるのは当社の強み。都市部ではWiMAX、地方では3Gといったようにエリア補完にも役立つ。3G網とWiMAX網を組み合わせれば、リダンダンシー(冗長性)の効果もある」

もちろん、固定回線も合わせて提案できる。M2Mの活用範囲が広がる今後は、より低廉な機器への搭載や、無線の通じない場所での利用が進むと考えられる。KDDIが提唱する“マルチネットワーク”は、M2M分野でも強みとなるはずだ。

“ソフトSIM”の標準化進む

多様なM2Mサービスを生み出すには料金プランにも工夫が求められる。富士通の大澤氏によれば、海外キャリアと付き合うことで参考にすべきプランを学ぶことができるという。ユニークなのが、次の例だ。

通信モジュールを機器に組み込む際、通常は試験が行われる。国内では概ね、試験時に通信回線が開通し、その後料金が継続して発生する。だが、試験時に開通した後その製品は一旦在庫となる。エンドユーザーが実際に利用を始めるまでは料金を発生させたくないというのが、M2Mサービスを行う企業のニーズだ。

そこで、試験用に一旦回線を利用でき、その後は回線を寝かせて、本稼働まで課金が行われない形態の料金プランを提供すれば、このニーズに応えることができる。「現状すぐには難しいが、MVNOの仕組みを使って、お客様の需要に合うモデルを模索していきたい」と大澤氏は話す。

また、「通信料金をM2M端末の価格やM2Mサービスの料金に織り込み、エンドユーザーから見えなくする仕組みが有効。販売する際のチャネルを広げるうえでも役に立つ」と話すのは、MCPC・モバイルM2Mワーキンググループ技術SWG主査の入鹿山剛堂氏だ。

もう1つ見逃せないのが、「e-SIM(Embedded SIM)」だ。遠隔から書き換え可能なSIMのことである。通信モジュールを機器に組み込んだ後、エンドユーザーが利用を始める際に電話番号などの情報を書き込んだSIMカードを差し込むのでは、M2Mサービスの販売スキームが複雑になる。

例えば、ゲーム機などのコンシューマ向けデバイスの場合、家電量販店で端末を購入した後、キャリアショップに寄って通信回線を契約してSIMカードを挿入するといった手間がかかるのでは、普及は難しい。電源を入れたら自動的に開通するよう、予め設定しておくこともできるが、それでは未開通の端末管理に手間がかかる。

e-SIMは、こうしたM2Mサービスの売り方の課題を解決する。モノを購入した後、ユーザーが電源を入れると電話番号が割り振られ、即サービスが利用可能になる。海外においては現地キャリアに切り替えるといった販売方式が可能になる。

現在、GSMAでe-SIMの標準化が進んでおり、ドコモはM2Mプラットフォームでこのe-SIMの管理を行う「Subscription Manager」機能を準備している。

月刊テレコミュニケーション2013年3月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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