ゲリラ豪雨から住民を守れないか――。そんな思いが込められたM2Mサービスが、2012年11月に登場した。名称は「防災テレメータサービス」、提供しているのはNTTドコモだ。
暮らしに危険をもたらすのはゲリラ豪雨だけではない。日本国土は台風や地震、津波とともにあるといっても過言ではない。雨量や風向・風速がリアルタイムで、しかも町や村といった小さいエリアでキャッチできれば、自治体も住民も災害への備えを整えることができる。
これを実現しようと立ち上げられた防災テレメータサービスのファーストユーザーは、愛知県知多郡武豊町だ。自治体に加え、社会インフラを運営している鉄道会社や電力会社なども注目するこのサービスの基盤となっているのが、ドコモが運用する環境センサーネットワークである。
これは、ドコモの携帯電話基地局に設置した環境センサーで計測する温度や湿度、降水量、風向・風速、雷、花粉などの気象データを蓄積し、人々に役立つ情報に加工して提供するもの。環境センサーネットワークがリアルタイムに収集している気象観測データは、ビッグデータそのものである。そのネットワークを実現しているコアテクノロジーがM2Mだ。命の安全にかかわるサービスにM2Mを活用するサービス、その発端は4年前にさかのぼる。
「イノベーションを起こせ!」
「イノベーションを起こす事業を考えてほしい」
08年7月に設置されたフロンティアサービス部に配属され、通信事業推進担当部長に就いた坪谷寿一氏に対し、ドコモの山田社長(当時)はこう指示した。
「パブリックに寄与するサービスを考えてみよう」。坪谷氏はそう決めた。教育、医療、環境――、一口にパブリックな領域といっても様々ある。坪谷氏は、環境を可視化すること、そして低炭素社会に寄与するサイクルづくりに寄与することにターゲットを絞った。前者を実現する仕組みが環境センサーネットワークであり、後者の例として各地の自治体と組んで自転車をシェアリングする事業がスタートしている。
図表1 環境センサーネットワークの仕組み |
では、環境を可視化するためにドコモはどう動いたのか。それは、自社の強みを生かすことだった。環境を可視化する基盤が内部にあった。携帯電話用の基地局である。基地局の設置個所は6万にのぼり、これに環境センサーを取り付ければビジネスの骨格が出来上がる。
気象データを利用するためには、環境センサーが収集したデータを送信し集約するシステムが必要となるが、それは全国をカバーする同社の携帯電話網を活用すれば容易に行える。同社は環境センサーの設置を進め、現在、約4000カ所に環境センサーを設置している。
図表2 基地局に取り付けられた環境センサー |
観測対象とする環境データは温度や湿度、降水量といくつか種類があり、センサーや気象観測装置もそれぞれ専用のものが用いられる。気象庁が運用するアメダスの観測所は約1300カ所。ドコモが環境センサーを配備した4000カ所のうち、気象観測装置を設置しているのは2500カ所ほどでアメダスを上回る。
ドコモは、アメダスが観測所を置いている場所を外して環境センサーを設置した。両者の気象データを足し合わせることによってエリア単位で精度の高い気象データを入手することを可能としたのだ。