「電話MVNO」で次の成長フェーズへ――日本通信 福田副社長インタビュー

MVNO大手の日本通信は、スマホ電話SIMの市場投入により「電話MVNO」としての第一歩を踏み出した。音声通信事業領域に進出した背景と成算を聞いた。

――これまでのデータ通信中心のサービス展開とは位置付けの異なる新事業として、8月に「スマホ電話SIM」を提供開始しましたが、音声通信の領域に進出した背景を教えてください。

福田 当社としては、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)がデータ通信にばかり傾注しているというイメージを払拭したい考えがあります。「MVNOのSIMはデータ通信料だけでなく通話料も取り扱いができる」ということを広く知っていただきたいのです。

電話MVNOとしての第一弾となるのが、8月1日にスマートフォンを電話としても利用するユーザー向けに発売したスマホ電話SIMです。

この1、2年でスマートフォンは機能強化やバッテリーの改善などにより、使い勝手が急速に向上してきました。スマートフォンと携帯電話、いわゆる“2台持ち”をするのではなく、フィーチャーフォンと同程度にスマートフォンの電話機能を使用するニーズが高まっています。こうしたニーズや使い方の変化に合わせて当社も戦略を変えなくてはなりません。

回線交換の音声サービスを取り扱うことは時代に逆行しているようなイメージもありますが、LTEによる移動通信のフルIP化を見据えた上で、その移行期間である今が音声サービスを始めるのに適したタイミングだと思っています。

――スマホ電話SIMのサービス内容を聞かせてください。

福田 スマホ電話SIMは通話プランを3種類用意しており、ユーザーが自分の通話量に応じて選択できるようにしています。

最も通話量が少ないユーザー向けの通話プランSの場合、月額1290円から利用でき、無料通話分1365円分で、通話料は21円/30秒です。また、データ通信オプションも追加可能で、SMSも利用できます。なお、音声プランとデータ通信オプションの組み合わせは、ユーザー個別のサポートページから1カ月単位で変更することができます。

――以前から提供している、音声通信も利用できるサービス「talkingSIM」との違いは何ですか。

福田 talkingSIMはデータ通信にオプションで音声通話も可能にできるものです。電話をたくさん使うユーザーには向いていません。一方、スマホ電話SIMは音声通話専用としても利用できます。

現在はほとんどのユーザーがデータ通信のみを利用していますが、今後、我々が提供するサービスのうち、音声とデータ通信を両用するユーザーの割合は8割程度になると見ています。

公平かつ適正な通信料を提供

――MVNOは一般ユーザーにも広く認知されるようになりましたね。

福田 テレビや一般紙など、通信業界以外のメディアでも取り上げられるようになったことで認知度が上がり、注目されるようになりました。

――注目される理由の1つに、通信サービスに多様な選択肢を与えた、というものがあるようですが。

福田 大手キャリアの料金体系に対するユーザーの潜在的な不満が、我々MVNOがサービスを提供することで、顕在化したのでしょう。

従来の定額プランでは、ユーザーのデータ送受信の利用頻度の多寡に関係なく画一的な料金プランになっていて公平とは言えません。そこで当社は自分が使った分だけを支払えるように、SIMに各種プランを設けたのです。ユーザーの利用形態に合わせたフレキシブルな料金プラン体系ができあがりました。

――いわゆる「2年縛り」がないことも、ユーザーにとって魅力的では。

福田 その通りです。また、ビジネスの観点からも、我々が2年縛りをユーザーに適用するメリットはあまりありません。公平な通信サービスのあり方の観点からも、2年縛りなら安くなると提案するのは難しいと思われます。

月刊テレコミュニケーション2012年10月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

福田尚久(ふくだ・なおひさ)氏

1986年東京大学文学部卒業、1992年ダートマス大学経営大学院(MBA)修了。1993年9月、アップルコンピュータ入社(1996年からアップルコンピュータ米国本社ディレクターを兼務)。同社事業推進本部長およびマーケティング本部長を経て、2001年アップルコンピュータ米国本社副社長に就任。2002年4月日本通信上席執行役員、2004年取締役を経て、2006年常務取締役に就任。2010年代表取締役専務、2012年6月代表取締役副社長に就任

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