「AIの余剰でRANが動く世界へ」ソフトバンク 先端技術研究所長 湧川氏に聞くAI-RANのインパクト

「『出来上がった技術を買ってくる』では遅い」。ソフトバンクが先端技術研究所を立ち上げた大きな理由の1つだ。今、グローバルの主要プレイヤーと一緒に注力するのがAI-RANアライアンスの取り組み。湧川所長は、AI-RANで目指す世界が実現すれば、「我々の設備投資の考え方が大きく変わることになる」と話す。

ソフトバンク 執行役員 先端技術研究所 所長 湧川隆次氏

ソフトバンク 執行役員 先端技術研究所 所長 湧川隆次氏

――ソフトバンク 先端技術研究所が2022年4月に設立されて約2年半が経ちました。あらためて設立目的を教えていただけますか。

湧川 ソフトバンクは事業会社ですので、事業のための技術開発を行う部署は以前からありましたが、「研究所文化」はありませんでした。「10 年かけて新しい技術を作るのだったら、今その技術を持っている会社を探して買ってこい」というのがソフトバンクです。

しかし、ソフトバンクも、企業規模が大きくなるにつれ、「未来への投資のため、やはり研究開発はすごく重要」と考えるようになりました。

加えて、世の中の技術発展のスピードがものすごく速くなったこともあります。箱物のハードウェアからデジタルのソフトウェアの時代になって、イノベーションのサイクルがこれほど速くなると、「出来上がった技術を買ってくる」では遅いのです。新しい技術を自前で作ったり、自ら切り拓いて発掘していく必要があります。

そこで研究所を立ち上げたのですが、他と違うのは、我々の活動のゴールは「技術を使って収益を上げること」であることです。そこは研究所になっても変わっていません。

――では、研究所になって大きく変化したことは何ですか。

湧川 途轍もなく変わったのですが、それはなぜかと言うと、以前は事業開発の工程の中で研究開発していたので、できた技術を外部に出すことは、あまりやらなくてよかったのです。事業が世に出れば開発した技術も世に出ますし、事業がなくればなかったことになります。

ところが研究所になると、ソフトバンクの“顔”として、「どんな未来を描いているのか」を外部へ発信することが新しいミッションとして加わります。アライアンスなど、外部の方をグローバルに巻き込みながら活動することも研究所になってから増えました。

HAPS商用化へのプライド

――「未来への投資」という言葉がありましたが、どんな未来の実現に力を注いでいますか。

湧川 日本の労働人口は減少していきますから、AIを軸にしたデジタル技術で補完し、競争力を高めていくことが大変重要です。では、A Iを活かすための基盤は誰が作るのか。それは、モバイルや固定通信のインフラを持つ我々のミッションだと考えています。今後、A Iを活用した新しい事業がいろいろ出てくるでしょう。デジタルデバイドを拡大させないためにも、AIを東京だけではなく、日本全国へしっかり展開できるデジタル基盤を実現していきます。

もう1つは耐障害性です。人が作った技術ですし、自然災害も増えていますから、「落としません」とは宣言できません。しかし、なくては困るインフラです。壊れても早期に復旧する、あるいはHAPS(成層圏通信プラットフォーム)等を使って別の方法でインフラを提供するなど、耐障害性の向上にも注力しています。

――ソフトバンクはHAPSに早くから取り組み、HAPS用周波数の拡大などにも大きく貢献してきました。NTTグループは2026年中にHAPSを商用化予定ですが、ソフトバンクの最近の状況を教えてください。

湧川 商用化に向けては、モーター、バッテリー、ソーラーパネルの“三種の神器”となるコンポーネントや、機体の開発にフォーカスしています。何をもって「商用」なのかの定義は様々ですが、我々には「24 時間365日提供しなければテレコムではないだろう」というプライドがあります。日照時間の長い夏季だけ、災害時だけであれば、すぐに提供できますが、24 時間365日飛ばすとなると機体も大きくなり、なかなか大変です。しかし、できるだけ早く商用化しようと一生懸命取り組んでいます。

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湧川隆次(わきかわ・りゅうじ)氏

政策・メディア博士( 慶應義塾大学・2004 年取得)。2013年にソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)に入社。日米で活躍し、2016 年より先端技術開発本部 本部長を経て、2022 年より現職。先端技術研究所を率いて、5G/6G、自動運転、HAPS、AI 、量子技術など、ソフトバンクの新規技術検証や新規事業開発を担当。著書に「アンワイアード デジタル社会基盤としての6 G へ」「I T の正体」「MobileIP 教科書」など

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