時系列基盤モデルの組み込みを
生成AIに加え、時系列データに特化した「時系列基盤モデル」も頭角を現し始めている。事前に学習した時系列データを基に、未知の領域に対しても分析や予測ができるというもので、ハイパースケーラーやスタートアップを中心に開発が進められている。例えば過去の定量データから、温度や電力消費量、株価などを推定できる。
具体的には、米Nixtlaの時系列基盤モデル「TimeGPT」は、金融やヘルスケア、経済などの多種多様なデータセットを学習済みのモデルだ。同モデルは、データの中から重要な要素を見つけ出すAttentionメカニズムを軸としたTransformorモデルを用いてトレーニングを実施している。
Googleでよく検索されるトレンドやWikipediaのページビューを学習済みの「TimesFM」や、エネルギーや自然など計6領域の時系列データセットを学習したLlamaを基盤に構築した「Lag-Llama」なども存在する。
「今はまだ発展途上の時系列基盤モデルが実用に耐えうるものだとすると、IoTは定量データが多いため、生成AIやIoTの分野に大きな進化をもたらす可能性がある」。山下氏はこう述べたうえで、「IoTソリューションのサプライヤーは、自社のサービスに時系列基盤モデルを取り込むことも検討してほしい」と期待する。
エッジAIでデータ収集効率化
AIによるデータ解析の前段階として、当然データの収集は必要不可欠だ。また、大容量のデータすべてをクラウドにアップロードして処理するのは効率的ではない。そこで、エッジAIを用いてデータ収集を効率化・自動化する動きが加速している。
これを追求する1社が、AIを活用した映像分散管理プラットフォーム「モビスキャ」を提供するNTTコミュニケーションズ(NTT Com)だ。モビスキャとは、タクシー事業者等のモビリティパートナー(MP)が所有する自動車に搭載したドライブレコーダーから市街地の映像を取得し、映像内の人物の顔などの個人情報をマスキングして同プラットフォームに蓄積。そのデータをデータ活用パートナー(DP)に提供するというものだ。
データ収集の課題を解決するのが、モビスキャに搭載された「最良映像の選別保存」技術である。複数のモビリティが取得した同じ場所の映像データから最適なデータを選び出す技術で、「時間帯や天候などのデータを基に、最も良いと思われるデータのみを保存する」とNTT Com プラットサービス本部 5G&IoT部 インテグレーションサービス部門 担当課長の三谷秀行氏は説明する。
NTT Com プラットサービス本部 5G&IoT部 インテグレーションサービス部門 担当課長 三谷秀行氏
もう1つ、撮影した映像データを各SDカードに分散させる「分散データ保存」技術を実装。「映像自体はSDカードに残し、その映像の詳細をテキスト化したデータ(メタデータ)を蓄積している。動画とテキストでは容量が異なるので、膨大なデータを軽く集めることが可能になっている」(三谷氏)
今年7月には、モビスキャを活用した「AI道路工事検知ソリューション」を提供開始(図表2)。水道管やガス管などインフラ設備のパトロール業務の効率化に寄与するもので、具体的には、ドラレコに搭載されたエッジAIがカラーコーンを検知すると、その映像がサーバーに自動アップロードされる。その後、サーバー上で再度AI解析を行い、コーンバーや矢印看板等の有無などに応じてスコア化。一定のスコアを超えた映像がWeb管理画面で確認できるという仕組みだ。
図表2 NTT Com「AI道路工事検知ソリューション」の概要
今後は、ドローンや個人スマホ等から取得した映像をモビスキャに収集し、災害情報の把握や桜の開花状況の観測など、幅広い用途への応用を目指すという。