トラフィック公平性の実現へ
オープンキャッシングのメリットを最も享受すると考えられるのは、地方のISPだ。
自社ネットワーク内に自らの判断でキャッシュサーバーを持つことができ、上位ネットワークからのトラフィックを削減しコスト圧縮が見込めると同時に、ユーザー体験の向上も図れる。
CDN事業者もオープンキャッシングに参加することで、より大きな協力をISPから得ながら、「自分たちのCDNをマルチCDNとして拡張していくことができる」(髙見澤氏)。
ISPとCP各社は、ISPに設置されているオープンキャッシング対応サーバーを共用できる。オープンキャッシングの仕組みにより、CP各社はサーバー設置コストを低く抑えられ、ISPはトラフィック対策コストを節約できる。
オープンキャッシングの運用にあたり、CPはQwilt社にCDNを利用するための費用を支払う。ISPはIXと連携しオープンキャッシングの配信環境を導入し、導入によるコスト削減によって費用を回収するという構図だ。
米国のアライアンスにはネットフリックス、ユニバーサルなどの大手コンテンツ事業者や、グーグル、マイクロソフト、AWSなどのハイパースケーラーが名を連ねているが、日本においてはオープンキャッシングの設備の普及はまさに始まった段階。「ISPと協力し、Edgeサーバーを増やし、より多くのコンテンツを配信できるように動いている状況」と髙見澤氏は説明する。オープンキャッシングがワールドワイドで配信しているコンテンツをすべて配信するには至っていないが、実環境で稼働し始めており、ライブ配信での利用実績もすでにある。
オープンキャッシングの利点は、このようなコスト効率化や配信品質の改善に留まらない。髙見澤氏は、オープンキャッシングは国内のトラフィック公平性の問題を解決するカギになると強調する(図表2)。「日本のトラフィックは東阪に集中しており、インターネットの耐障害性や分散という特性が生きていない」
図表2 国内CDN事業者からみたオープンキャッシングのメリット
地域で発生したトラフィックを大都市圏を経由させることなく、地域の中で完結させるオープンキャッシングは、トラフィックの分散とネットワークの強靱化に結びつくと髙見澤氏は展望する。それは「個々のネットワークが平等に、相互につながる」というインターネットの理想形をあらためて実現することにもなっていくだろう。