サイバー空間上に光ネットワークのデジタルツインを作り、その性能を分析・予測することで伝送容量を最大化したり、迅速な障害予知を可能にしたりする――。
通信ネットワーク業界では高性能かつ安定的な通信インフラを実現すべく、そうした運用管理手法を実現するための取り組みが続けられている。
NTTが今回、開発した新技術もその1つだ。
これまでは専用の測定器を現場に持ち込んで人手と時間をかけて行っていた光伝送路の測定、調整等の作業をリモートから実施できるようにすることで作業の大幅な省力化、迅速化を実現する。研究成果について説明したNTT未来ねっと研究所 トランスポートイノベーション研究部 研究主任の笹井健生氏は、電気信号へ変換することなく光のまま通信する「IOWN APN(オールフォトニクスネットワーク)の運用に使えると想定している」と語った。
IOWN APNの測定で3つの課題
光ファイバーネットワークは、つなげば即座に長距離・大容量伝送ができるほど単純なものではない。伝送容量を最大化するには多くのパラメータを調整する必要があり、なかでも「最も重要なのが光パワーだ。強すぎても弱すぎてもいけない。そのため、光パワーを測定して適切なパワーに調整する必要がある」(笹井氏)。
ただし、IOWN APNのようにネットワークの全区間を光化した場合、いくつかの課題が生じるという。
エンドツーエンド光接続の課題
1つが、セキュリティ上の問題だ。上図表の左側のように、IOWN APNの両側には顧客企業やデータセンター事業者のネットワークがつながるが、それら他社ネットワークの光パワーを、IOWN APNを提供するNTTが測定することは難しい。かといって、「光パワーの情報をくださいと交渉すると時間がかかり、伝送路の構築が遅れてしまう」。
もう1つは、異常・障害発生時の対応に関するものだ。
伝送路の途中で異常が認められた場合、現状では専用の測定器を持ち込んで経路上の全ノードで測定する必要がある。これには多大な人手と時間がかかる。