第1回と第2回では日本のICT産業におけるM2Mの重要性と海外マーケットにおいて着目すべきプレーヤーの動向を主にビジネスモデルの側面から論じたが、第3回では日本勢がM2Mの世界で躍進するための要諦を明らかにする。
まず考えなければならないのは、グローバル市場で覇権を獲得するということが日本の製造業及びICTプレーヤーにとってどのような状態を指すのかである。
M2Mの世界は、携帯電話の販売台数などのように数量ベースで明確に特定プレーヤーの浸透率を表現する指標を持ち得ないため、端的な表現で市場の優位性を証明することが難しい。
また、各種リサーチ会社がM2M関連市場の将来予測を行っているが、数字を算出するうえでの前提条件が必ずしも揃っておらず、加えて一般産業界視点というよりもICTプレーヤーの提供価値のみが積算されている。このような条件下でICTプレーヤーの健闘度合いの優劣を論じても、M2M市場全体における趨勢や価値提供の状態を正しく表現することは困難といえる。
筆者は、M2Mという様々な価値の相乗によって実現される世界は、シェア/売上高といった従来的な概念に基づく成果測定ではなく、一般産業及び公共機関における適用実績で証明されるべきだと考えている。より端的にいえば、有名/優良事例をどれだけ獲得できるかである。
M2Mは単純な商品でもなく、パッケージソリューションでもなく、特定通信手段でもない。これらが複雑に絡み合い、産業界固有のビジネスプロセスと密接な関係を保ちながら今までにない効果/効用を訴求する「メカニズム」である。
当然、今後のグローバル化や成功事例の横展開等を勘案すると、M2Mそのものがパッケージ化され、誰もが容易に導入できる手軽さが求められること自体は否定しないし、ある種の真理である。だが、このような時代が到来するためにも、まず求められるのは各界における優良事例の創出だ。
自動車、産業用機械、医療機器、家電といった各界において、M2Mがどれだけ高度に利用され、そこで日本企業がどれだけ貢献しているのか?――を今後の評価基準に据えることが重要だと思われる。
日本の製造業、ICTプレーヤーの貢献により、世界レベルで各界の産業構造や商品開発の方向を変え、新たなサービスモデルが導出されることになるとすれば、それはまさに「覇権を獲得」した状態であり、その結果として、各種の端末やモジュール、通信サービス等が普及することへとつながることになるのであろう。
何よりも重視されるのは量ではなく質的な側面におけるプレゼンスの確立だ。そこを押さえることができれば、後から量的側面における便益は確保できるはずである。