新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、時間や場所に制約を受けることなく働ける「テレワーク」がスタンダードになったが、遠隔地にある料理の味を楽しむ「テレテイスト」「テレイート」が実現する未来も、近い将来到来するかもしれない──。この実用化に取り組んでいるのが、明治大学の宮下芳明研究室だ。
明治大学 教授 宮下芳明氏
同研究室は2021年11月、任意の食べ物の味を再現できる装置「Taste The TV(TTTV)」を開発。五味(甘味・酸味・塩味・苦味・味見)を表現する10本の味溶液カートリッジを搭載し、これらを混ぜ合わせることで、あらゆる味を表現することが可能になる。完成した味は、ディスプレイ上の透明シートに噴霧し、それを舐めるとディスプレイに映し出された食べ物と同じ味が楽しめる。
同年に開催された最先端のデジタルコンテンツをテーマにした国際イベント「DCEXPO」では、このデバイスを用い、映画「チャーリーとチョコレート工場」に登場するチョコレートの味を再現するデモンストレーションを実施。「画面を舐めると味がするというのは、非常にインパクトがある。世界中で反響があった」と宮下氏は語る。
翌年には、食べ物の味と見た目を変える装置「TTTV2」を開発した。例えば、毒キノコ(ベニテングタケ)味のエリンギを作りたいとする。毒キノコとエリンギの味を味覚センサーで測定し、味の差を算出。この味の差をエリンギに噴霧することで、毒キノコ味のエリンギが出来上がるという仕組みだ。可食インクの活用により、見た目の変更も可能になる。
テレビ番組でもこのデバイスが取り上げられ、牛乳をカニクリームコロッケの味に変えるデモが行われた。「甲殻類アレルギーを持つ人でも安全に食べることができる」と宮下氏は説明する。
(左から)粉砕したカニクリームコロッケの味を味覚センサーで測定する様子、TTTV2で牛乳をカニクリームコロッケの味と見た目に変える様子(出典:明治大学)
昨年8月には、産地の違いを再現するアクチュエーションデバイス「TTTV3」を発表。国際宇宙ステーション(ISS)内での実験にも使われた高性能なチューブポンプを採用し、味溶液カートリッジを20本に増やしたことで、「0.02mlというプロの料理人以上の細かさで味を表現できるようになった」と宮下氏は自信を見せる。
また、同装置はChatGPTなどの生成AIと連携させることも可能だ。例えば、「パスタソースを作りたい。どの味溶液がどれくらいの割合で必要か教えてほしい」とプロンプト入力すると、「それなりに的確な数値が返ってくる」(宮下氏)という。