変わる!公衆無線LANビジネス(後編)――Hotspot2.0がもたらす変革とは?

スマートフォンの普及と新規格Hotspot2.0の登場を契機に、公衆無線LANサービスが変わり始めた。後編では、公衆無線LANサービスの可能性を大きく広げることになりそうな新規格「Hotspot2.0」について紹介する。

オフロード対策の「切り札」

前編で見たようにスマートフォンの普及に伴い、公衆無線LANサービスに新たな可能性が生まれてきている。だが、これらを本格展開するにはクリアしなければならない課題も残っている。その1つとして挙げられるのが、現在の無線LAN技術のままではこうした新たな用途に十分に対応しきれない可能性があることだ。

例えば、携帯電話事業者がスマートフォンのトラフィックを公衆無線LANにオフロードさせようとしても、利用には煩雑な初期設定が必要となり、これがネックとなり利用が広がらない可能性がある。

スマートフォンには電波の強度に応じて、Wi-Fiと3G回線を自動的に切り替える機能があるが、これもトラフィックオフロードを想定したものではないため、適切な選択が行われないケースが少なくない。こうした状況でAP数だけを増やしても、十分な効果は期待し難い。専用アプリの導入によりこの問題に対応しようとする試みもなされているが、現状では十分な効果が得られていないようだ。

こうした中で、オフロード問題の解決の「切り札」として期待される新たな技術仕様の策定が、無線LAN技術の標準化団体のWi-Fiアライアンスで大詰めを迎えている。Hotspot2.0と呼ばれるこの新規格は、携帯電話網に実装されているさまざまな機能を公衆無線LANに取り込むことで、より高度なサービスを実現しようとするものだ。

図表 Hotspot2.0によって実現が期待されるビジネス/サービス [クリックで拡大]
図表 Hotspot2.0によって実現が期待されるビジネス/サービス

例えば、Hotspot2.0で実現が期待されている新サービスの1つがローミングだ。携帯電話では日本で使っている端末をそのまま海外に持ち出しても、現地の事業者のネットワークを国内と同様の使い勝手で利用できる。これと同じ環境を公衆無線LANサービスで実現しようというのである。

公衆無線LANサービスでは、エリア補完の必要から、国内の事業者の間でも広くローミングが実現されることが期待されている。Hotspot2.0では、他のネットワークとの接続仕様であるIEEE802.11uや、携帯電話で使われているSIMカードの拡張技術(EAP-SIM)による認証の導入などで、簡便かつスムーズなローミングが実現される。

ローミングを実現するには、無線LANの技術仕様だけでなく事業者間の相互接続ルールや料金精算の仕組みが必要だ。そこで通信事業者を中心に組織されたWBA(Wireless Broadband Alliance)でWRIX(Wireless Roaming Intermediary Exchange)と呼ばれる仕様が策定されている。WBAではWRIXにHotspot2.0と組み合わせた規格をNGH( Next Generation Hotspot)の名称で推進、10月から11月にかけてそのトライアルが実施された。

Hotspot2.0の発効は2012年9月の見込みだが、シスコシステムズなどのAPベンダーや端末チップメーカーなどが暫定版をベースに開発を進めており、2012年中には製品の供給が始まる見込みだ。シスコで無線LANソリューションを担当するシステムエンジニアリング&テクノロジーSPアーキテクチャシニアマネージャーの人見高史氏は「携帯電話と同様、スマートフォンやPCの電源を入れるだけで世界のどこでも自動的に公衆無線LANに接続できる時代が間近に迫っている」という。

さらに注目されるのがNGHの次のターゲットとして3G/LTEと公衆無線LANとのローミングの検討が始まっていること。この仕組みを活用すれば、スマートフォンのトラフィックオフロードが非常にスムーズに実現できる。ローミングに参加している広範な公衆無線LANサービスを自社の設備と同様に利用し強力なトラフィックオフロードを実現できる可能性もある。

月刊テレコミュニケーション2011年12月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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