変わる!公衆無線LANビジネス(前編)――スマートフォンは「神風」

スマートフォンの普及と新規格Hotspot2.0の登場を契機に、公衆無線LANサービスが変わり始めた。数十万規模に広がることが期待されるAP群は新たなビジネス展開の舞台にもなりそうだ。

人の集まる駅や空港、カフェなどで、ノートPCなどのWi-Fi対応機器にインターネットアクセスを提供する公衆無線LANサービス――。ニッチなビジネスとみられていたこのマーケットが活気づいている。牽引するのは、昨年来急速に利用者を増やし、2011年度は1500万台を超える販売が見込まれるスマートフォンだ。

従来の携帯電話の10~20倍のデータをやりとりするスマートフォンの本格普及に伴って、爆発的なトラフィック増加への対応は携帯キャリアのまさに喫緊の課題となっている。その対策の1つとして各社が力を入れているのが公衆無線LANへの「トラフィックオフロード」である。スマートフォンに搭載されている無線LAN機能に目を付け、トラフィックが集中する地域でアクセスポイント(AP)を拡充、より快適な通信が可能な無線LANにユーザーを誘導することで、携帯電話網の混雑を緩和しようというわけだ。

すでにソフトバンクモバイルとKDDIは定額データプランのユーザーを対象にスマートフォンで公衆無線LANが利用できるサービスを無料で提供している(ソフトバンクはキャンペーン扱い)。両社とも年度内に10万カ所のAPが利用できる環境を整える計画を打ち出している。

無線LANへのトラフィックオフロードに慎重な姿勢を見せていたNTTドコモも、2011年4月に携帯電話ユーザーを対象に月額315円で公衆無線LANが利用できるサービスを開始、10月には2012年3月までの「キャンペーン」としてその無料提供に踏み切った。現在6800カ所にとどまっているAPも2012年度上期をめどに3万カ所程度に、将来的には10万カ所程度までに拡充する計画だ。

オフロードが設備環境を底上げ

こうした携帯キャリアによるAPの整備が公衆無線LAN事業者を巻き込む形で進められ、結果として公衆無線LANサービスの設備環境の底上げにつながっている。

NTTグループの無線LAN設備の構築を担っているNTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)は、現在全国に1万弱のAPを設置・運用しており、NTT東西、ドコモ、NTTコミュニケーションズがこのうち必要なAPを借り受ける形で公衆無線LANサービスを展開している。

NTT-BPのAPは駅・空港、カフェ、ホテル、ビジネスビルなどを広くカバーしていることから、NTTグループ以外の公衆無線LAN事業者の多くもその一部を利用する形でサービスを行っている。

NTT-BPは前述したドコモのサービス拡充計画に対応するため、2002年の会社設立以来10年をかけて整備してきた現行の1万APを、1年で3万規模まで拡大する計画を進めている。NTT-BP代表取締役社長の小林忠男氏は「スマートフォンのトラフィックオフロードの動きが“神風”となって、事業規模が当初の想定よりかなり拡大することになりそうだ」と話す。増設されるAPは、ドコモ以外の事業者にも利用されるので、公衆無線LANサービス全体の利便性が大きく向上することが期待される。この動きは、NTTグループに限った話ではない。

NTTブロードバンドプラットフォーム 代表取締役社長 小林忠男氏
NTTブロードバンドプラットフォーム 代表取締役社長 小林忠男氏

KDDIグループの公衆無線LAN事業者、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)は、2011年4月にKDDIが開始したスマートフォン向け公衆無線LANサービス「au Wi-Fi SPOT」に、Wi2が運用するAPを提供しており、現在もKDDIのニーズに応える形で新たなAP拡充に取り組んでいる。同社CTOの小松直人氏はKDDIへのAPの提供は同社にとって「かなり大きい、安定的な財務基盤になっている」という。

ワイヤ・アンド・ワイヤレス CTO 小松直人氏
ワイヤ・アンド・ワイヤレス CTO 小松直人氏

同時に、Wi2はKDDIが新たに整備したAPの提供も受ける形で、同社の公衆無線LANサービス「Wi2 300」で利用できるAP数を10月末に従来の1万3000以上から3万以上に拡大した。このように、スマートフォンの通信料金がトラフィックオフロードを通じて公衆無線LAN事業者に環流し、インフラの拡充が進むという流れが広がっているのだ。

さらに最近では、電力系の通信事業者やCATVにも公衆無線LANのインフラ整備に乗り出す動きが出てきている。こうした動きが本格化すれば公衆無線LANの利用環境は格段に向上することになるはずだ。

月刊テレコミュニケーション2011年12月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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