ポーランドに本拠を置くコマーチは、通信業界をはじめ金融、医療、公共など幅広い分野向けのソリューションをグローバルに提供する企業だ。100カ国以上で数千ものプロジェクトを成功させた実績を持ち、現在の社員数は7000人、時価総額は約50億ドルに上る。
2017年7月の日本法人設立以来、特に注力しているのがOSS(Operation Support System)/BSS(Business Support System)だ。コマーチ・ジャパン カントリーマネージャーのウカシュ・ゼズラク氏は「コマーチのOSS/BSSは52製品からなる。通信事業者のニーズを聞き、あてはまる製品をピックアップし組み合わせてソリューションとして提供する」と説明する。通信事業者がビジネス遂行のために運営するシステムは複雑かつ巨大だ。それゆえ「同一ベンダーの製品を一気に導入することは少なく、基本的にはゴールのイメージを描き、監視、リソース、サービスフルフィルメントなどの領域ごとに採用する」(ゼズラク氏)という。
コマーチ・ジャパン カントリーマネージャー ウカシュ・ゼズラク氏
アラートを95%削減
そこで重要なのが、OSS/BSSの標準化だ。国際標準化団体であるTM Forumは、通信事業者の業務プロセスと情報の流れを、利用するアプリケーション単位でマッピングしたアプリケーションフレームワーク(TAM)を作成。コマーチらのベンダーはこれに準拠して開発を行うことで、複数ベンダーが混在する環境での運用を可能にする。
OSSの最近の進化として最も目覚ましいのが自動化だ。コマーチのソリューションを採用したある通信事業者の事例を図表1に示す。障害発生時のアラート発報から顧客への通知に要する時間を約26分短縮して55秒にした。
図表1 アシュアランス自動化効果の事例
従来はNOCに表示されるアラートを目視して処理していた。コマーチのOSSは、ルールに従った自動化処理を行う。実績のあるアラートは過去と同様の処理が適用されると同時に、各処理はサービスへの影響を考慮して自動で優先順位が付けられる。
こうして、この事例では、300万件発生したアラートのうち、人間が処理するのは1万件と、約95%もの自動化を果たしたことになる。さらに、「AIによってこの比率を98%」までに高めたいとゼズラク氏はさらなる高性能化を誓う。
しかし、最初からAIに任せることは無理だとゼズラク氏は注意する。通信事業者には、多種多様なデータが蓄積されている。ベンダーによる違いもあれば、紙のまま保持されている可能性すらある。「OSSの更新はAI利用のための下準備の側面もある」。コマーチのOSSはベンダーを問わずデータを統一し一元管理できる。最良のシナリオは、それぞれのベンダーの情報をOSSのインベントリ管理で保管することだ。それにより、各業務プロセスにおけるタスクをミスなく処理することができる。
ところで、「55秒でのアラート処理の裏側にはインベントリがある」とゼズラク氏が述べるように、OSSにおいてインベントリは重要な概念だ。一般に機器構成の一覧を指すことが多いが、TM Forumが規定する範囲は広く、トポロジー情報など論理構成の情報をも含むデータベースを指す。
ネットワークは機器の故障や追加など、毎日のようにその状態が生き物のように変化する。こうした変化がすぐにインベントリに反映されるとは限らないが、ネットワークとデータベースを比較すれば不一致を把握できる。こうした比較をコマーチではリコンシリエ―ションと呼ぶ。最低限1日1回はこのプロセスを実行し、インベントリを自動で最新の状態に保つようにしている。これと監視が組み合わさって初めて、アラート処理の大幅な自動化が達成される。