Microsoft Lyncで電話システムも含めたユニファイドコミュニケーション(UC)基盤を作る――。総合人材サービスのインテリジェンス(本社:東京都千代田区)は2010年8月、日本マイクロソフトのUC基盤製品「Microsoft Lync 2010」の導入を開始した。
同社は08年から、Lyncの前身である「Microsoft Office Communications Server 2007(OCS)」の運用を始め、インスタントメッセージング(IM)やプレゼンス機能、Web会議「Live Meeting」を社内の特定部門に展開。電話とメールのみだった既存のコミュニケーション環境に新たなツールを加えて、その効果を検証してきた。
そして、昨年登場したLyncがOCSに比べて大幅に音声通話機能を拡充した点を評価し、音声基盤も既設のIP-PBXからLyncのソフトウェアIP-PBX機能へと移行する計画を立てた。まず、IT部門で、Lyncのクライアント「Lync 2010」をインストールしたPCで内外線通話を行う仕組みを構築。IM/プレゼンス、電話、Web会議がPC上で連携するUC環境をパイロット導入し、2011年1月から運用開始した。
インテリジェンス ビジネスイノベーション本部 業務システム部 全社サービス開発グループ マネジャー 宮地和雄氏 | インテリジェンス ビジネスイノベーション本部 業務システム部 サービス企画グループ 金島利明氏 |
「何でもメール」の無駄を解消
ハードウェアPBXからの乗り換えを含めてLyncによるUC基盤を構築する例は、国内ではまだ希少だ。それでなくとも、今日の傾向として、コミュニケーション環境への投資は優先順位の高い分野とは言えない。インテリジェンスがマイクロソフトのUCに着目した理由は何だったのか。
ビジネスイノベーション本部・業務システム部・全社サービス開発グループの宮地和雄マネジャーは、「メールに依存し過ぎた環境を変えたかったのが発端」と話す。「メールの頻度が増えすぎて、コミュニケーションのあり方があまりにおかしくなっていた。何でもメール、顔を見ながらでもメール。その状況を変えようと動き始めた」
同様の違和感を抱く人は少なくないと思われる。些細なメッセージを伝えるだけでも手紙のように文章を起こさなければならないメールは、知らぬうちに業務スピードを遅らせる要因になっている。
これを解決するために08年にOCSを導入。IT部門とコンタクトセンター部門のスーパーバイザーへIM/プレゼンス機能を展開し、伝えたいことのみを簡明直截に伝えられるIMの効果を検証した。また並行して、Web会議の導入も進めていった。
IMとプレゼンスの導入からUC環境の構築をスタート。「必要なことだけを伝える」IMを浸透させることで、“メール依存症”の解消を狙った |
「基本設計がないUC」の限界
だが、IM/Web会議の導入成果は、宮地氏には少々物足りないものだったようだ。どちらもある程度定着はしたものの、「今度は隣の人とIMをしたり、1対1のやり取りにはWeb会議があまり使われなかったりと、正しい使い方が根付かなかった」
理由は、各ツールが個別の仕組みとして存在していたためだ。極論すれば、機能が少しずつ“かぶった”ツールが増えただけ。メールの弊害を解消する効果は確かにあったが、これでは場面に応じて最適な手段を選ぶのが難しい。導入効果を高めるには、UCの本来の目的である、ツールの融合・連携が不可欠だった。「原因は、UCのきちんとした設計がないから」との判断から、各ツールの機能を精査するとともに、音声通話も統合したUC基盤の構築に取り組み始めた。
それを後押ししたのが、Lyncの機能強化だ。パーク保留に代表される保留転送機能の充実に加え、コールアドミッションコントロール機能や拠点用サバイバル装置の追加などで音声通話の信頼性も向上した。
Lyncの導入とシステム構築は三井情報が担当した。従来、OCSの導入・構築は自前で行っていたが、音声基盤の統合を目指すには電話システムの構築・運用ノウハウが不可欠となる。そこで、マイクロソフト製品のみならず、マルチベンダーのUCシステム構築で実績を積み重ねてきた三井情報をベンダーに選定した。