W-VPNに「飛びついた」
「以前は携帯電話にばかり目がいっていた」と語るのは、総務本部・京都総務部の大坪宏治主任だ。当初は、携帯電話貸与者と社内電話システムとの連携向上に主眼を置き、ソフトバンクの「FMC-PBX」を検討していたという。
だが、その導入にはPRIの新規引き込みが必要となり、管路に空きがない状態だった同事業所では、工事費用に数百万円のコストがかかること、コールピックアップができないこと、携帯端末の削減につながらないことなどから断念した。
そこで、PBX更改を担当するシステムインテグレーターのニッセイコムが提案したのが、ウィルコムの「W-VPN」だ。
自営のPHSアンテナで運用する事業所用PHSとW-VPNを併用することで、広大な敷地内の通話可能エリアをカバーし、外出中も含めて場所を意識せずに内線番号での発着信が可能になる(図表1)。CX9000IPとW-VPNとの連携により、内線番号での発信者通知も可能だ。
図表1 W-VPNにより社員間の連絡を |
また、外出先からの外線発信もPBXを経由すれば、他の拠点との通話は専用線へ、顧客や取引先等との通話はIP電話網を利用し、通話料も削減できる(図表2)。
図表2 PBX経由の外線発信 |
W-VPNの提供開始以来、連携機能を強化してきたCX9000IPの機能も活用すれば、「最大の懸案だった携帯端末の集約ができるだけでなく、通信コストも削減でき、運用方法も大きく改善できる。日立マクセルにピッタリのソリューションだった」(ニッセイコム関西支社・関西営業本部、服部憲仁・営業課主任)。
京都総務部はこの提案に「飛びついた」(大坪氏)。経営幹部にもその効果が高く評価され、またたく間に導入が決定。提案から稼動開始までわずか2カ月足らずというスピード導入となった。
W-VPN端末は、08年8月の稼動開始時に日本無線製の「WX220J-Z」を105台導入した。料金プランは月額1900円の「トリプルプラン」(1時~21時の070番号への通話が無料)を採用。その後、携帯電話を徐々に置き換える形で追加した。
3月末時点で147台が導入済みで、同敷地内に存する子会社、マクセル精器の56台と合わせて203台が稼動中だ。製造・開発設計担当や、製造現場のシフトリーダーおよび主任クラス、また総務や施設部門など、緊急性が求められる業務の従事者が日々活用している。
なお、今回の導入時に番号体系も刷新。W-VPN端末は2000番台、構内PHSは3000番台、固定電話機は4000番台と、社員個々の保有端末が一目で把握できるようにした。
「課題」は高評価の証
持ち歩く端末は1台で済むようになり、さらに場所を意識せずにダイヤルできる。稼動開始から半年余りが経ち、社員が操作に慣れるに従って、その利便性は期待通りの効果を発揮しているという。合わせて、通話コストの削減効果の検証も徐々に進めており、以前の携帯電話関連コストと、W-VPNのコスト比較では、現時点で15~20%程度の削減効果が見られるという。
端末の置き換えを段階的に進めてきたため、正確な検証はまだ難しい状態だが、年間比較が可能な段階になれば「30%程度のコスト削減効果も期待できるのではないか」と大坪氏は感触を語っている。
一方、少ないながら課題もある。大坪氏が真っ先に上げたのは、ウィルコム端末が、新幹線の会員制ネット予約サービス「エクスプレス予約」に対応していないことだ。出張社員に使用を推奨している同サービスが、携帯電話からしか利用できないことがW-VPN導入後に判明。総務部では今後、他拠点へのW-VPNの展開も検討していきたい考えだが、この点が障害になりそうだという。
また、携帯電話の料金競争が激化するなか、1900円というトリプルプランの料金を割高とする意見も多いようだ。
ただし、本分である電話機能ではなく、こうした面での課題が強調されるのは、それだけW-VPNへの満足度、評価が高いことの証と言ってもいいだろう。京都事業所は09年度、構内アンテナの増強もすでに計画中だ。
大坪氏は「固定電話型のPHSも少しずつ導入している。電話機移設コストの削減などの効果があり、今後増やしていきたい」と語るなど、PHSをベースにさらに電話システムの使い勝手を高めていきたい考えだ。