「最初は苦労していたが、トークンの仕組みを基地局展開に取り入れたところ、あっという間に世界有数のLoRaプロバイダーへと登り詰めた」
ノキア ソリューションズ&ネットワークス CTOの柳橋達也氏がこう言って注目するのは、米Nova Labs(旧Helium社)のHeliumネットワークである。同社のWebサイトによれば、現在、全世界190カ国に98万を超えるLoRaWANホットスポットによるIoTネットワークを展開している。
携帯電話網に代表される公衆ワイヤレスネットワークの構築には、非常に大きな資本と労力が必要だ。スタートアップ企業がこれだけ大規模にLoRaWANホットスポットを展開できている理由は、トークンエコノミーの活用にある。LoRaWAN基地局を購入・設置し、Heliumネットワークを広げているのは、世界中の一般個人だ。
LoRaWANを採用したHeliumのIoTネットワークのエリアカバレッジ。トークンエコノミーにより、世界最大級のLoRaWANネットワークへと急成長した
ホットスポットオーナーは、Helium対応の基地局を購入し、自宅やオフィスなどに設置する見返りに、暗号資産「Helium Network Token(HNT)」を報酬として得られる。
取り扱ったデータ量に応じて基本的に報酬は支払われるため、オーナーには利用者の多いエリアに基地局を置いたり、アンテナ調整などにより電波の飛びを最適化しようといったインセンティブが働く。「すでに基地局がある場所の近くに別の基地局を作っても、元々いたオーナーよりも圧倒的に少ないトークンしか得られない」(柳橋氏)ようにもなっている。こうした工夫により、中央管理者がエンドツーエンドで構築・管理しない分散型ネットワークでも、カバレッジ拡大や干渉調整を自律的に行えるようにしているのだ。
図表 Heliumのトークンエコノミーの仕組み
トークンエコノミーによる分散型ワイヤレスネットワークの取り組みは、Helium以外にもある。例えば米Wayruだ。エクアドル出身のCEOが率いる同社は、エクアドルを皮切りに、ラテンアメリカを中心にWi-Fiホットスポットをトークンエコノミーによって広げ始めている。
「Starta Wireless Revolution(ワイヤレス革命を始めよう)」。HeliumのWebサイトには、こんな言葉が掲げられている。革命の兆しは確かに見えているようだ。問題はこの革命の火がどこまで広がるかだが、実はワイヤレスネットワークの“本丸”でも煙は立ち始めている。