照明のON/OFF、洗濯機や電子レンジのメニュー選択、扉・窓の電子錠の開け締め――。家電製品や住宅設備がIoT化されると、こうした動作から取得できるIoTデータで、実に様々なことがわかるようになる。
照明からは帰宅時間や活動時間帯といった生活サイクルが、洗濯機のメニューからは家族構成が推測できる。電子レンジのメニューからは食の嗜好が判明。照明・エアコンのON/OFFや冷蔵庫の開閉状況と電子錠の状態を組み合わせれば、住人の在不在もわかる。
住宅IoTデータから取得できるプライバシー情報
ネットワークとクラウドにつながるIoT家電や住宅設備によってスマートホームが実現されれば、私たちの生活はより便利になる。だが、同時に、それらを提供する家電メーカーやサービス事業者へプライバシーが筒抜けになるリスクも抱え込む。事業者は、犯罪に悪用されることを防ぐことはもちろん、利用者のプライバシー保護に留意して適切にデータを取り扱う必要がある。
スマートホームのIoTデータはサービス提供に用いられるほか、IoT家電に不具合が発生した時の故障原因の特定や新機能の開発、マーケティングやプロモーションなど様々な目的で使用されるが、一定のルールに則って適切に利用されなければ、消費者の信頼を損なうことになる。
スマートホーム部会 IoTデータプライバシー検討WG 主査の山本雅哉氏(左)と、
検討WGが主催した有識者会議の座長を務めた国立情報学研究所 情報社会相関研究系・教授の佐藤一郎氏
家電・住宅設備業界がこのリスク管理に取り組むことを目的として、電子情報技術産業協会(JEITA)が2023年3月30日に、「スマートホームIoTデータプライバシーガイドライン」を公開した。スマートホーム部会 IoTデータプライバシー検討WG 主査の山本雅哉氏は、制定の目的について「個人情報保護やプライバシーに配慮したうえで、利用者の信頼を得るために、関係者が必ず考慮すべき項目やあるべき姿を提示する」と述べた。
個人情報保護法に該当しないデータも存在
スマートホームで取り扱うIoTデータには、個人情報保護法で定められる個人情報に該当しないデータも存在する。その例については冒頭で述べた通りだが、一律にすべてのIoTデータの活用を規制してしまうと、スマートホーム製品/サービスの提供に支障をきたす。つまりはバランスが重要だ。
個人情報とスマートホームIoTデータ
ガイドラインの策定に当たって検討WGが主催した有識者会議の座長を務めた国立情報学研究所 情報社会相関研究系・教授の佐藤一郎氏は、「事業者からみると、プライバシーというのは広い概念。すべからく保護しようとするとビジネスが回らなくなってくる。どんな情報をどう使えばいいのか、考えながら扱っていく必要がある」と指摘した。
ただし、事業者ごと、製品ごとに基準が異なれば消費者は混乱する。これまでは業界全体の共通ルールがなく、事業者ごとの判断に任されていた。「そこに一定の枠を作ることが、今回のガイドライン策定の背景だ」(佐藤氏)。