<連載>10年後のネットワークを創る研究者たち(第6回)KDDI総合研究所 光トランスポートネットワークグループ コアリサーチャー 相馬大樹氏10ペタ級の光ファイバーを実現 空間分割多重の課題を1つ1つクリア中

KDDI総合研究所で、光ファイバーの大容量化の研究を行っている相馬大樹氏にお話を伺った。現在の光ファイバーの大容量化技術である「波長分割多重」などでは、限界が見え始めた。光ファイバーを束ねた多芯ケーブルで容量の増大は可能だ。だが、海底ケーブルなどではサイズの制約のため、多芯化も限界に近づきつつある。相馬氏は、次世代技術としてマルチモードやマルチコアなどの「空間分割多重」の研究に取り組んでいる。

インターネットを始め、現在の通信の大部分は、「光ファイバー」を使って伝送されます。光ファイバーは、ガラスで作られたクラッドの中に光を伝送するコアがある構造になっています。クラッドとコアは屈折率の異なるガラスになっていて、光はコアの中心を進みます。

現在のシングルモード光ファイバーの伝送容量の理論限界は100Tbpsといわれています。現状の波長分割多重などの方式を使って、これ以上の速度を出そうとすると、光のエネルギーが大きくなりすぎてコアが溶けてしまうといった問題が発生してしまうのです。

実用化されている光ファイバーの性能は、すでに10Tbps近くに達していて、あと10倍しか「伸びしろ」がありません。10倍というと大きいように思文◎塩田紳二(フリーライター)えますが、インターネット利用者の増大などにより年々通信量が増えています。さらに5Gの普及、IoT機器などのネットワーク機器の増大、4K/8K動画などのメディアデータの増大など、通信量を増加させる要因も増えていて、早ければ数年で通信量が10倍になる可能性があります。

とりあえずの対策としては、複数の光ファイバーを束ね芯線数を増やす、複数のケーブルを敷設するなどの方法があります。しかし、海底ケーブルでは、ケーブルの太さや中継器の物理的なサイズなど構造上の制限があり、多芯化が限界に近い状態になっています。しかも、海底ケーブルは敷設に時間とコストがかかるため、簡単には増やすことはできません。

将来を考えるとどうしても光ファイバー単体の伝送容量を100Tbps以上に増大させる必要があります。

KDDI総合研究所 光トランスポートネットワークグループ コアリサーチャー 相馬大樹氏

KDDI総合研究所 光トランスポートネットワークグループ コアリサーチャー 相馬大樹氏

大容量化の方法

現状、光ファイバーの通信容量を拡大する方法には、複数の通信を時分割で行うことで経路の利用率を高める時分割多重、複数の波長(注1)で伝送を行う「波長分割多重」、複数ビットの信号を同時に変調する多値変調などがあります。前述の10Tbpsの限界は、これらの技術の限界といえます。

(注1)無線では周波数を使うが、同じ電磁波である光は周波数で表記すると大きな数になってしまうため波長で表現する。波長と周波数は逆数の関係にある

光ファイバーの新しい大容量化技術として考えられているのが空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)です。具体的には「マルチコア」と「マルチモード」技術があります。私の研究は、こうした技術を使って、光ファイバーの伝送容量を拡大することです。

マルチコアとは、1つの光ファイバーの中に光の経路となる「コア」を複数作るものです。マルチコアにはコア間の干渉にどう対応するのかという問題があります。

マルチコアには、大きく「結合型」と「分離形(非結合型)」の2つの方式があります。非結合型は、コアのまわりに屈折率の低い部分(トレンチ)を作り、コアから漏れる光を小さくしてコア間の影響を小さくする方法です。結合型は、トレンチを作らずにお互いが影響することを前提として、後処理でそれぞれのコアで伝送される信号を分離します。このとき無線通信のMIMOと同種の技術を利用します。

非結合型マルチコアは、トレンチを作るためコア間隔を一定距離空ける必要があります。これに対して結合型では、コア間距離を短くできる反面、後処理を行って信号を分離する必要があります。どちらも一長一短あり、KDDI総合研究所では、両方の方式を検討しています。

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相馬大樹(そうま・だいき)氏

2010年北海道大学工学部情報エレクトロニクス学科卒。2012年同大学院情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻修士卒。同年KDDI入社。2013年KDDI総合研究所出向

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