――シスコでモバイルビジネス領域を担当されています。5G関連のビジネス状況から教えてください。
ミール シスコはパーパス(存在意義)として、「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」ことを掲げています。
これについてさらに言葉を紡ぐと、すべての人が価格的にも手の届く形で5Gにアクセスできるように、5Gを成長させていくことがシスコの目的です。
つまり、一部の産業だけが使うのではなく、あらゆるタイプの事業者、特にエンタープライズのお客様が取り組んでいるDX推進に貢献できるような5Gへと育て上げていくことが私のミッションです。
米シスコシステムズ モバイル・ケーブル・IoT事業担当
バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー マスーム・ミール氏
5GのSA化はゆっくりと
――通信事業者の5Gインフラ投資が着々と進んでいます。注目している点は何でしょうか。
ミール 5Gの投資サイクルは、かなり長期化してきています。
その中で私たちがやるべきことは、いかにコスト効果の高いソリューションを通信事業者に提供できるかです。なかでも、ネットワークの複雑性を解消し、いかにシンプル化できるが重要です。
これについては、光伝送とIPレイヤーを統合するシスコの新アーキテクチャ「RON(Routed Optical Networking)」が役に立ちます。また、ネットワークが大規模化していくなかで、我々は運用自動化技術によって通信事業者のTCO削減に大きく貢献できると考えています。
加えて、通信事業者はコアネットワークの伝送容量を増大させながら、同時にカーボンフットプリントを削減しなければなりません。電力の有効活用も、シスコが提供すべき価値の1つだと考えています。
――日本では、5G NSA(Non Stand Alone)からSA(Stand Alone)への移行が始まりました。
ミール SAは歩みが遅く、当面はそれほど加速しないと見ています。
というのも、コンシューマーユーザーのエクスペリエンスにおいて、NSAとSAの差はほとんど分からないからです。
ところが、ビジネスのユースケースに目を転じてみると、5G SAのメリットが際立ってきます。SA化はこちらの領域で先行します。
特に有望なのが運輸・交通業界です。車両の電気化と自律走行という2つの大きな流れがあり、5G SAはそこで高い価値を提案できるのです。
自動運転車も電気自動車も大量のデータを生み出し、消費します。車両とクラウドの間で常にデータのやり取りが生じることになりますが、このトランザクションに遅延が発生しては、非常に困ったことになります。5G SAはこの遅延の短縮において優位性を発揮します。
一方、産業用途ではセキュリティ面でも5Gが優位性を備えています。
運輸・交通業界では様々な種類のデータを扱います。車両から得られるデータを、自動車メーカーは車両の設計に活かし、車両オーナーは運行管理に役立てます。ドライバーはインフォテイメントサービスを使います。これらすべてのデータをエンドツーエンドでしっかりと保護するために、5Gは価値を提供できます。
しかも、これらは走行中のクルマに限りません。道路も交差点もデジタル化し、あちこちに配備されたセンサーからのデータも保護しなければなりません。輸送・交通業界のエコシステム全体で5G SAが必要とされるでしょう。
ここで重要なのは、こうした領域がすべて、通信事業者にとってまっさらな市場であり、新しいレベニューを獲得できるという点です。