MVNE(MVNO支援)事業を手がけるレンジャーシステムズは、デバイスからネットワークの構築・運用保守までをトータルで提供できるIoTコネクティッドサービス「monoコネクト」を2016年に開始した。自社開発の安価なBLEセンサーやBLE/Wi-Fiゲートウェイ、さらにシステムの柔軟性の高さなどが評価され、様々な用途で活用されている。2017年10月からは、LoRaWANのネットワークサーバーを自社開発し、LoRaWANもmonoコネクトのラインナップに追加。台湾Gemtek社のLoRaWANデバイスと組み合わせて提供している。
「monoコネクト」のコンセプト
レンジャーシステムズのセッションでは、同社のパートナー企業も登壇し、このmonoコネクトの具体的な活用事例やmonoコネクトと連携できるソリューションが数多く紹介された。
レンジャーシステムズ IoT事業部長の木村秀一氏が、monoコネクトの代表的ユースケースとして、まず取り上げたのが「トイレのIoT」だ。商業施設やオフィスビルなどのトイレの個室にセンサーを取り付け、来店客や従業員が利用状況を確認できるようにする。レンジャーシステムズは、リアルタイムトイレ空室検索サービス「トイレSearching」として昨年4月から展開している。
「9月末時点で約3000個室に導入されている。センサー数ベースでは、おそらく当社がこの分野でトップではないか。2018年はこの2~3倍の導入を期待している」
木村氏はこう述べて、トイレSearchingの構築・販売を手がける東芝デジタルソリューションズ インダストリアルソリューション事業部 産業ソリューション技術部 産業ソリューション技術第一担当の長根信治氏にバトンタッチした。
レンジャーシステムズ IoT事業部長 木村秀一氏
日本最大級の商業施設で「トイレのIoT」の大規模実証長根氏が紹介したのは、日本最大級の売上を誇る商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」で2018年4月から行われている実証試験だ。
ラゾーナ川崎プラザでは、トイレの個室の利用状況だけでなく、順番待ちスペースにマットセンサーを設置することで、どれだけ人が並んでいるかも分かるようにした。施設内各所に設置した案内板(24型タブレット)で来店客が確認できるほか、警備や清掃などの施設運営にも活用されている。
長根氏によれば、センサーによって「施設全体で1カ月に50万回の個室の利用があり、延べ1000時間以上の待ち時間が発生していることが分かった」という。
そして、どのフロアのトイレが混んでいるかを来店客が把握可能になったことで、「待ち時間を平日で6割、休日で2割削減できた」と明かした。「この時間が買い物にあてられるとすれば、效果は大きい」と長根氏は見る。この取り組みはメディアでも多く取り上げられ、Twitterにも好意的な発信が多く上がっているとのことだ。
トイレSearchingの概要
このように大きな効果が出ているラゾーナ川崎プラザのプロジェクトだが、「簡単にうまくいったわけではない」と長根氏。
「現地対応はすでに60回以上行っており、夜間対応も90時間くらいに及んでいる。マットセンサーは、小さく丈夫にできているものの、すでに200枚くらい交換している」
長根氏はこう語ったうえで、「そうした際、レンジャーシステムズはすぐに駆け付けて対応してくれる。IoTを支えるのは技術以上に“人”だ」とした。
東芝デジタルソリューションズ インダストリアルソリューション事業部
産業ソリューション技術部 産業ソリューション技術第一担当 長根伸治氏
続いて登壇したのが、ACCESS IoT事業本部 ハードウェア事業準備室 室長の山田淳一氏だ。ACCESSは、強みである組込みソフトウェア技術を活かし、家電連携からロボット、空港のロケーションサービス、ホームIoTまで、様々なIoTの案件を手がけてきた。講演ではそのうち、monoコネクトのデバイスを用いて構築した「ICT保育園:空気見える化」と「病人介護」の2つの事例が紹介された。
ICT保育園:空気見える化は、保育園に設置したmonoコネクトの「CO2/PM2.5センサー(環境センサー)」と「温湿度センサー」のデータを「Bluetooth-Wi-Fiブリッジ」を介して解析サーバーに送り、運営者が施設の快適マップを作成するもの。優れた保育環境を保護者に訴求でき、好評を得ているという。
ICT保育園:空気見える化の概要
もう1つの病人介護は、病棟のベッドの近くに温湿度センサーを設置し、患者が付けている血圧・心拍・脈拍センサーのデータと合わせて解析サーバーに送信することで、医療従事者が患者の状況をモニタリングできる。医療従事者の不足が問題となるなか、IoTで質の高い医療を維持しようという試みだ。
ACCESS自身も、自社のオフィスに温湿度センサーを設置して快適な業務環境の維持に役立てたり、社員証にBluetoothビーコンを搭載して全社員の居場所が分かるようにするなど、IoTの活用を積極的に進めているとのことだ。
ACCESS IoT事業本部 ハードウェア事業準備室 室長の山田淳一氏
IoTのトレンドは「クラウドに直接」さらに、山田氏は、これからのIoTの技術トレンドとして、センサーデバイスがクラウドに直接つながるようになるという見方を示した。これまでは、省電力性の優れるBLEをセンサーデバイスに採用し、いったんゲートウェイに集約してWi-FiやLTEなどでクラウドに送信する形態が主流だった。
しかし、LoRaWANやSigfox、NB-IoT/LTE Cat.M1、Bluetooth Mesh、Bluetooth 5などの技術の登場により、センサーデバイスから直接クラウドにデータを送信する形に移行していくという。
LPWAの普及によって、今後は直接クラウドにつながるIoTデバイスが増えていく
パートナーセッションの最後を飾ったアジュールパワー 営業本部の根本真考氏は、この日に同社が発表したクラウドサービス「センサーマップ(β版)」を紹介した。
アジュールパワー 営業本部 根本真考氏
センサーマップは、ユーザーがクラウドにマップをアップロードし、その上にセンサーの位置や情報を登録することで、センサーの位置やステータスをPCやスマートフォンなどで閲覧できるサービス。実際にmonoコネクトの「開閉センサー」や「環境センサー」の設置場所やステータスを表示させるデモが披露された。
センサーマップの概要
講演の最後に木村氏は、レンジャーシステムズが開発中のエッジコンピューティングデバイスを披露した。6000円程度の開発ボードと899円のカメラで組み上げた試作機で、顔認識や車のナンバー認識が可能なことをデモで示した。
「カメラと認証などのエンジン、LTEモジュールを搭載し、数万円で商品化しようと考えている。おそらく2019年のゴールデンウィーク開けには、皆様にご提供できるのではないか」
木村氏はこう話したうえで、「2019年度はエッジ処理ができる安価なデバイスが市場にたくさん登場し、IoTが加速度的に普及してくる。皆様と一緒にIoTで変わる世の中を楽しんでいきたい」と講演を締めくくった。