「Sigfoxのサービスエリアは、10月中に人口カバー率84%を突破、年度末目標の85%に近づく。全国の市レベルの地区でSigfoxが使えるようになることで、ビジネスも本格的に動き出すのではないか」
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)の松木憲一取締役は、秋以降のSigfox事業の展開に期待を寄せる。
消費電力の小さなデバイスを用いて広いエリアから安価にデータを収集できる無線技術として注目を集めている「LPWA(Low Power Wide Area)」――。Sigfoxはその代表格といえる存在だ。開発元の仏シグフォックス社は、地域(国)毎に契約したパートナー企業を通じて、SigfoxによるIoT向けの通信サービスをグローバル展開しており、日本では2017年2月にKCCSが回線の提供を開始した。
Sigfoxはデバイスから1回12バイト(端末識別・タイムスタンプなどは別)のデータを1日に最大140回まで送れるセンサー通信に適したサービスとして展開されている。
「年額100円から」という安価な料金設定や、初期投資を抑えて手軽にIoTシステムを構築できる点がその大きな魅力となっており、日本でも水道やガスの自動検針、児童や高齢者の見守りなど、様々な用途で実用化が進められている。すでに商用展開される事例もでてきていて、エリアの整備を機に、こうした動きが加速すると見られるのだ。
例えば、11月に商用化が計画されているものの1つに、ITソリューションベンチャのネクストスケープが開発したスポーツ自転車の盗難防止サービス(AlterLock サイクルガードサービス)がある。GPS搭載のSigfox端末を自転車に装着し、自転車から離れている時に振動を検知すると所有者のスマートフォンにアラートを送信、万一盗難にあった場合はGPSにより位置を追跡して発見をサポートする。内蔵電池で長期間稼働するSigfoxの特性を生かしたユースケースだ。
この他にも、
(1)オフィスに配置された置き菓子の在庫が減った際にボタンを押して注文ができる「キットカット たのめるくん」(KCCSモバイルエンジニアリング/ACCESS)
(2)寒冷地の家庭などに設置されている灯油タンクの残量を遠隔で測定、灯油配送を最適化するスマートオイルセンサー(SOS)(ゼロスペック)
(3)警報ブザーとGPSを内蔵したデバイスを児童に持たせ、遠隔地から居場所を確認できるようにする児童見守りサービス(双日/アイ・サイナップ)
(4)Sigfoxを用いて低コストでLPガスの自動検針を実現、さらにAIにより配送業務の効率化を図るシステム(NEC)
(5)ビルなどに設置された看板の傾き・揺れを遠隔監視し早期メンテナンスの提案などを行う看板ソリューション(オプテックス/オージス総研/ザイマックス)
(6)斜面の杭などに内蔵電池で長期間計測可能なセンサーを取り付けるだけで利用できる傾斜監視システム「OKIPPA104」(西松建設)
(7)構造物に取り付けるだけで配線や電源不要で利用できるワイヤレスひずみ検知システム「ST-COMM」(CACH)
(8)押しボタンによる“能動的見守り”と振動センサーによる“受動的見守り”を1つのデバイスで実現する高齢者見守りサービス(VALUECARE)
(9)ビニールハウスの温度・湿度・日射量・二酸化炭素濃度などを取得し、可視化・解析・アラート発信などを行うビニールハウス環境管理ソリューション(ジョイ・ワールド・パシフィック)
(10)配送中の生鮮・チルド食品や医療品の温度管理を可視化する、保冷BOX監視システム(オリエント商事)
をはじめ多くのソリューションが実証実験(PoC)を実施、あるいは商用展開されている。
松木氏は、公表されているもの以外にも「施設のゴミ箱が満杯になったことを通知するシステム、壁面緑化の水分量チェック、獣害対策、送迎バスの位置管理、港湾での貨物のトラッキング、ビルの空調機器の管理などさまざまなユースケースが出てきている」と明かす。
Sigfoxを活用したIoTデバイス。「キットカット たのめるくん」(左)、
アズビル金門の水道メーター自動検針装置(中上)、
ルイ・ヴィトンの旅行カバン追跡サービス用デバイス(中下)、
傾斜監視システム「OKIPAA104」の斜度センサー(右上)、
灯油タンクの蓋部分に内蔵されたスマートオイルセンサー(SOS) (右下)
今後のSigfoxを活用したサービスの展開を考える上で注目されるものに、位置情報機能の機能強化がある。
SigfoxではGPSを使わずに、基地局からの電波を利用してデバイスの大まかな位置を把握できる機能(Atlas)が提供されており、ルイ・ヴィトンが世界展開している旅行カバンの追跡サービス用デバイス「Echo」にも用いられている。さらに、位置情報サービスをてがけるHEREと組んでWi-Fiのロケーション情報を活用してより高精度な位置把握を可能にする「Atlas Wi-Fi」の提供が計画されている。この機能はEchoでもサポートされる見込みだ。
パートナー同士の出会いで、新たなユースケースが生まれるLPWA市場では、Sigfoxの他にもLoRaWANなど多くの技術規格が開発されている。中でも、今年商用展開が始まったLTEベースのLPWA規格であるLTE-MやNB-IoTへの関心が高まってきている。
では今後の展開はどうなるのか――。松木氏は、これを考える上で「単なる技術の比較は意味がない」と指摘する。「事業的に成功することで、多少のスペックの差異は意味を持たなくなってしまう」からだ。
その上で、LTE-MやNB-IoTに対しSigfoxは、技術以外の2つの点で優位性があるという。
1つは、ビジネスモデル。SigfoxはマッシブIoT――「誰もネットワークにつながることを想定していなかったモノをネットにつなげるIoT」を主力ターゲットに想定、この市場を切り開くために、設備・運用・営業コストを抑えることで「年額100円から」という破格の料金を実現した。松木氏は、このマーケットに高コスト体質の携帯電話事業者が参入しても「利益を出すのが難しく、本腰を入れ難いのではないか」と見る。
もう1つはパートナー戦略だ。
「回線で収益をあげにくいIoTのビジネスでは、携帯電話事業者は垂直統合型で自らサービス分野も手掛けようとする傾向にある。これではなかなか市場の裾野は広がらない」と松木氏は指摘する。
これに対しSigfoxでは、KCCSは回線提供に特化し、IoTサービス/アプリケーションの展開はパートナーに委ね、KCCSはこれを支援するというスタンスをとる。今年2月時点では266社だったパートナー数(アプリケーション、デバイス、インテグレーションの合計)が、379社と100社以上増えたことからもパートナー戦略がうまく進んでいることが見てとれる。松木氏は「中小企業、ベンチャー、地域の会社が多く参加している」点もSigfoxのパートナーの特長だという。これらのパートナー企業がSigfoxのビジネス拡大を支えているのである。
さて、KCCSでは2020年3月には人口カバー率99%にまでエリア拡大する計画を明らかにしている。松木氏は、これに向けて「エリア拡大にともない、パートナーが生み出す需要がさらに拡大していくだろう」と語る。
具体策としてKCCSが取り組んでいるのが、IoTサービスを計画しているパートナーへの技術・プロジェクトの両面での支援だ。
「技術支援では、パートナーが利用を計画している場所で本当に通信ができるかをサンプリング調査することまで行っている」という。今後、パートナー向けの技術支援サイトを拡充、技術サポートなど蓄積してきたノウハウなどを公開していくことも計画しているという。
またKCCSが注力するのが、パートナー同士のマッチングである。「アイデアはあるがデバイスや技術、販路がない」「技術はあるが販路がない」といった企業が、他の企業と「結び付く」ことで、新たなサービス・ビジネスが生まれてくると見るのだ。
KCCSが仲介する形以外にも、東京と大阪で年4回開かれるパートナー交流会などを通じて、多様なパートナーシップが成立しているという。
ユースケースの創出に向けた新たな試みも行われている。KCCSは7月から9月にかけて学生を対象に「Sigfoxで生活を楽しくするIoTアイデアコンテスト」の応募を受け付けた。Sigfoxを活用して、生活を楽しく、便利で、快適にするアイデアをビジネスにとらわれない形で出してもらうというもので、12月上旬に最終審査が行われ、最も優秀なプランには、アイデア部門で20万円、システム構築を伴うプロトタイプ部門では50万円が授与される。
松木氏は、「電子工作の延長で手軽にデバイスを開発でき、クラウドを介して簡単にPCなどと接続できることもSigfoxの大きな魅力だ。普及が進めばIoTに対する考え方も変わってくるのではないかと」と語った。
松木氏は、10月31日(水)に開催される「IoT/AIビジネスカンファレンス」(リックテレコム主催)に登壇、最新のユースケースやパートナー施策などを紹介する予定だ。
【A-2】10月31日(水)11:10-12:00
すべてのモノが「つながる」新たな未来へ IoTネットワーク「Sigfox」
★お申し込みはこちら→ http://www.ric.co.jp/expo/iotb2018/
●IoTネットワーク(Sigfox)の詳細はこちら→
https://www.kccs.co.jp/sigfox/index.html