電池不要のIoT無線「EnOcean」――6km通信が可能なLPWA仕様も開発

電池なしで利用できる近距離無線技術「EnOcean」の導入が、日本でも本格化してきた。6kmの遠距離通信が可能な「LPWA仕様」の実用化も進められている。

EnOceanは、独シーメンスで開発が進められていたエネルギーハーベスト(環境発電)を利用した無線通信技術で、2001年に開発メンバーがシーメンスの出資を受けて起業したEnOcean社(以下、エンオーシャン)が事業化している。

エネルギーハーベストとは、環境に存在する振動・光・熱などの微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力に変換する技術で、EnOceanはこの微細な電力を用いて通信を行う。

EnOceanの主要なユースケースの1つである照明の遠隔操作システムでは、スイッチを押す力を、内蔵された電磁誘導素子で電気に変え、その電力でオン・オフの指示を照明機器(あるいは制御装置)に送っている。光発電パネルで起こした電気をコンデンサーに蓄積し、この電力で各種センサーのデータを送るといった使い方も広く行われている。

EnOceanのスイッチデバイスに内蔵されているモジュールと電磁誘導素子
EnOceanのスイッチデバイスに内蔵されているモジュールと電磁誘導素

消費電力はZigBeeの10分の1EnOceanは、こうした微細な電力による通信に最適化されており、ZigBeeの10分の1という非常に低い消費電力で動作する。

省電力性を高めるため、デバイス側の「無線センサーモジュール」は基本的には受信(待受)を行わず、受け手となる「無線システムモジュール」への片方向通信を行う。この場合、再送制御が行えないので、1回の送信で同一データを3回繰り返して送り、信頼性を高めている。用途によっては省電力仕様の双方向通信(Smart ACK)を利用することも可能だ。

運用周波数は、日本の920MHz帯、米国の915MHz帯、欧州の868MHz帯などのサブGHz帯(免許不要帯域)が主力(日本・米国などでは315MHz帯の利用も可能)。日本ではARIBの技術基準(STD-T108)に準拠する形で、出力1mWで運用されている。変調方式はGFSK、最大通信速度は125kbp(s物理層)となる。伝搬特性に優れるサブGHz帯を利用することで、見通し300m、壁越しでも30~50m程度の通信が可能になっている。

図表 EnOceanのシステムイメージ
図表 EnOceanのシステムイメージ

EnOceanは、エンオーシャンの独自規格だったが、2012年にネットワーク層以下がISO/IEC14543-3-10として国際規格化された。

エンオーシャンは、エネルギーハーベストを利用する無線システムの基本特許を保有しており、これに基づいて通信モジュール、電磁誘導素子等のキーデバイスや開発評価キットなどを、最終製品を製造するメーカーに販売するビジネスを展開している。

エンオーシャンで日本担当のセールスディレクターを務める板垣一美氏は「すでに100社以上のメーカーから約1500種のセンサーやスイッチなどの対応製品が市場に出ている」と説明する。

エンオーシャン セールスディレクター ジャパン 板垣一美氏
エンオーシャン セールスディレクター ジャパン 板垣一美氏

月刊テレコミュニケーション2017年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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