日本企業がグローバルM2M市場で躍進するための要件[第1回]M2Mは日本ICT産業の“最後の砦”

国内外を問わず、注目されるM2M。日本のICT産業がこの分野でイニシアティブを発揮していくうえで不可欠な要件とは何か? 第1回は、日本企業にとってM2Mが“譲れない戦いの場”である理由を解説する。

M2Mは通信技術と情報処理技術が高度に組み合わさることで、各産業界、公共インフラサイドがこれまでになし得なかったサービスを実現可能にする新たなICTの代表格だ。各国において様々な出自のプレーヤーが、自社の強みに立脚した個性的なサービスをグローバル視点で展開している。

M2Mの定義はいくつか存在している。「モノ」に通信機能が備わればM2Mと解釈されている世界や、人間を対象とするサービスであっても、それが屋外空間や移動空間のもとで成立しているサービスであればM2Mと位置付けられている場合もある。

このようにM2Mの解釈は広がる一方だが、いずれにせよ日本のICT産業にとってM2Mは、最先端のテクノロジートレンドといった形式的な潮流論として存在するものではなく、今後のグローバル市場で覇権を握り得るか否かの「競争環境としての正念場」であると筆者は捉えている。理由は以下の2点だ。

理由その1:日本の産業界固有の強みが活きるM2M

近頃、ICTの世界で最も有望視されているソリューション領域であるM2Mだが、日本国内における歴史は意外に古い。公共インフラ、物流・輸送といった分野において、通信技術を中核に据えた形態で数多くの事例が展開されてきた。

これらの事例から概ね言えることは、他国と比してサービス水準の高い分野が積極的に「マシンコミュニケーション」の意義と効用を認めてきたという事実だ。

例えば防災の分野である。災害の頻度と影響度の高い日本では、古くから防災における通信技術の高度利用を志向しており、災害の予知予測や予防の手立てとしてM2Mの原型がすでに醸成されている。

他方、世界的に見ると、危惧すべきレベルで自然災害が頻発している地域は限られており、自然災害とあまり縁がない地域では、このような公共インフラの整備をきっかけとしたサービス開発、技術開発は皆無に等しい状況である(図表1)。

図表1 世界主要各国の防災予算(推定)
図表1 世界主要各国の防災予算(推定)

また、物流・輸送の側面においても、日本のサービス水準は古くから非常に高い評価を受けている。1980年代以降、消費者ニーズの多様化に応えるかたちで多品種少量生産が一般化したが、それによって本来訪れるはずの非効率なオペレーションやサービス/商品の物価高を最小限に抑え、新たな全体最適社会を実現させた。

この裏側にあるのは、モノ作りの前後に存在する物流・輸送分野の高度化に他ならず、通信及び情報処理技術が大きく貢献している。

サービス品質が高い分野で通信と情報処理技術を効果的に組み合わせ、別次元の効果・効用を追求することは、歴史的に見て日本企業の“お家芸”のはず。現在、新たな成長ステージが期待されるM2Mの世界で日本企業の躍進が期待されるのは当然の帰結である。

松岡良和(まつおか・よしかず)

世界で最初に設立された経営コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンで、 TIME(Telecommunication/Information Technology/Media/Electronics)プラクティスの日本代表を務める。専門領域は、同分野に対する事業戦略立案、新規事業開発、組織・人事制度改革等。国内最大手システムインテグレーター、会計事務所系コンサルティングファーム、欧州最大手IT・戦略ファームを経て、アーサー・ D・リトルに参画

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