デジタル化が進展する製造業、発電・変電設備、公共交通等の重要インフラにおいて昨今、注目を集めている技術に、「TSN」(Time Sensitive Networking)がある。これは、既存のイーサネットをベースとしながら、時間の同期性を保証し、さらにリアルタイム性を確保できるようにしたネットワーク規格の集合体のことだ。
イーサネットの遅延を最小化するためのあらゆる条件を網羅しており、国際標準規格を複数組み合わせる形で実現されている。時刻同期や通信の優先制御等により、リアルタイム性を確保した通信が可能なことがメリット。そのニーズは急速に広がっており、原田産業 AIFチーム セールスマネージャーの乾充一氏は、「最初にリアルタイム性が強く求められたのは車載ネットワークの領域だったが、昨今ではIoTの普及等を背景に、産業領域でもTSNのニーズが高まっている」と述べる。
TSNを構成する規格はいくつもあるが、その中でも重要なものが「gPTP」(generalized Precision Time Protocol)とも呼ばれる「IEEE 802.1AS-2019」だ。極めて低遅延に複数のデバイス同士が密連携するには、適切かつ高精度にそれぞれのデバイスの時刻を同期しておかなければならない。そのための規格がgPTPであり、これはIEEE 1588-2008(PTPv2)の規格に準じつつ、特別なプロファイルを定義したものとなっている。
産業用機械から列車制御 インダストリ4.0まで広がるTSNTSNの代表的ユースケースが、特に精密さと信頼性が求められる製造業におけるM2M通信だ。工作機械や産業用ロボットの制御、FAにおいて不可欠な要素になる。各マシンが高速かつ高精度に協調動作するには、マシン間を結ぶネットワークが超低遅延であり、かつ、極めて小さな誤差で時刻を同期することが強く求められるためだ。
また、スポーツアリーナや競馬場等で複数台のカメラを用いて映像を撮影し、大型ビジョンに表示するといったケースでもTSNが必要となる。映像表示のズレや乱れを防ぐためだ。
産業分野で用いられるマシンビジョン(図表1)にTSN(IEEE802.1AS)が重要とされるのは、システムのスループットを安定化させるために精密なタイムスタンプが必要だからだ。従来は、プロセス毎に個別センサによる自動化システム制御方式を採用していたが、これはジッタ(遅延時間の変化度合)が発生しやすい。対して、IEEE-1588 PTPに基づく802.1ASは、センサ信号の代用としてタイムスタンプに基づいてデバイスを正確に調整することでジッタを低減し、緊密にシステム調整。スループットがより正確に予測できる。
図表1 工場内やスポーツでのマシンビジョン
列車と線路側設備の間での無線通信によって列車の運行を制御するCBTCでも、図表2のようにTSNが重要な役割を担っており、国内でも導入が進められている。こうした高精度時刻同期に使われるのが「グランドマスタークロック(GMC)であり、親時計として精度の高い時刻情報を各機器に供給している」(乾氏)。
このほか、医療現場において将来的に遠隔手術が実現されたときにも、TSNは大きな役割を果たすはずだ。現場で実際に手術を行うロボットと、それをリモート操作する医師の操作にズレが生じることは許されない。
図表2 無線式列車制御システム(CBTC)とTSN