高速大容量、低遅延、多数同時接続などの特徴を持つ最新のモバイル通信システム「5G」を、企業や自治体などが自営網として利用できる「ローカル5G」。この新しい無線システムの運用に不可欠なコンポーネントにSIM(Subscriber Identity Module)がある。
SIMはモバイルネットワークに接続する際の認証に使われるICモジュールで、主に端末に差し込んで利用する「SIMカード」として提供されている。SIMに内蔵されたICチップには、接続に必要な加入者IDや暗号鍵などの情報が格納される。
欧州発のデジタル携帯電話規格(2G)GSMで実用化されたSIMは、その後3G、そして現行の4G/5Gにも用いられている。ローカル5Gでも、ネットワークの接続には、SIMが必要となるのだ。
SIMがモバイル通信の認証に用いられている大きな理由の1つに、クレジットカードや銀行のキャッシュカードにも使われているICカード技術を用いて、強固なセキュリティを実現していることが挙げられる。
国内で唯一SIMのソフトウェア開発から製造・発行までを一貫して手掛けるDNPでSIM事業を担当する情報イノベーション事業部ICTセンターセキュア・エレメンツ・デザイン本部 第2部 部長の神力哲夫氏は、そのコア技術を「ICチップに記録した暗号鍵などの重要データを、どのようにしても、外部からは盗み見たり、改ざんしたりすることができない“耐タンパー性”(Tamper Resistance)」だと説明する。
SIMをRoT(Root of Trust:信頼性の起点)とすることで、ローカル5Gは高い信頼性が求められるスマート工場などでも安心して使える強固なセキュリティを実現できるのだ。
とはいえ、これまでSIMは、携帯電話事業者をはじめとする少数の顧客へ大量に提供する形で展開されており、規模の小さい多様なプレイヤーが担い手となるローカル5Gには、扱いにくかった。
DNPが2020年3月に提供を開始した「DNP SIM for ローカル5G」は、SIMの提供方法を見直し、顧客の個別要求や小ロット対応等ローカル5Gに最適化させたものだ(図表1)。
図表1 DNP SIM for ローカル5Gのコンセプト
神力氏によれば、このローカル5G向けSIMには「すでに70社ほどのお客様から引き合いを頂いている」という。「テスト品の提供(サンプル出荷)段階の案件も多いが、量産品を提供するケースも増えてきた。今年度後半から量産品の展開が本格化するのではないかと見ている」