JR品川駅と田町駅の間に、約13万平方メートルもの広大な空き地があることをご存知だろうか。かつて「品川車両基地」が存在したこの場所が、JR東日本(以下、JR東)の「品川開発プロジェクト」によりスマートシティに生まれ変わろうとしている。
2020年3月、約50年ぶりとなる山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅が開業したが、これは同プロジェクトの序章にすぎない。2024年度には、第Ⅰ期まちびらきを予定しており、高輪ゲートウェイ駅周辺に4つの街区からなる新たな街が誕生する。約7万2000平方メートルの敷地に、約85万平方メートルの延床を生み出す4棟のビルが立ち並び、オフィスや住居、商業施設のほか、インターナショナルスクールやホテル、文化創造施設、カンファレンスホールなどが入る。2030年以降には、残る5・6街区の開業も計画され、高輪ゲートウェイ駅の乗車人数は約13万人前後まで増える見込みだ。
「都心最後の大規模再開発」といわれる品川開発プロジェクトで、JR東がタッグを組んでいるのがKDDIだ。「単に人や施設を集めるだけでは、旧来型の都市開発に終始してしまう。開発の潜在力をより高めるには、デジタルの力が必要になると考えた」と、JR東 事業創造本部 品川まちづくり部門 副課長 事業計画グループ グループリーダーの天内義也氏は協業の経緯を説明する。
JR東日本 事業創造本部 品川まちづくり部門 副課長
事業計画グループ グループリーダー 天内義也氏
KDDIは、渋谷の街を仮想空間上に再現し、エンターテインメントや文化を提供する「渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト」などで都市空間のリアルとバーチャルの融合に取り組んできた。とはいえ、「これほど大規模なフィールドはなかなかない。鉄道や通信というインフラとバーチャルを組み合わせれば、何か面白いことができるのではないか」。KDDI ビジネスインキュベーション推進部 部長の中馬和彦氏は、品川開発プロジェクトへの期待をこのように語る。
KDDI ビジネスインキュベーション 推進部部長 中馬和彦氏
品川開発プロジェクトで両社は、(1)イノベーション、(2)環境、(3)日本の豊かさという3つのテーマに取り組んでおり、5GやIoTを活用することで、それぞれの潜在力をフルに引き出していこうとしている。
例えばイノベーションでは、駅構内の警備や清掃、運搬、案内といった従来は人が担ってきた業務をロボットが代替する。2024年度予定の第Ⅰ期開業時にはすでに実装している状態にするため、高輪ゲートウェイ駅で実証実験を始めている。また、高輪エリアには高齢者が多く住んでいるが、坂が多く移動に不便であることから、オンデマンドバスの導入も視野に入れる。
さらに、日本文化を海外に向けて発信したり、祭りや伝統芸能など地方の文化をバーチャルに鑑賞する環境づくりも検討する。太陽光や風力、地中熱など低炭素エネルギーの最適な制御により、災害時でも“エネルギーの途切れない”まちづくりにも取り組むという。