1987年にネットワーク機器の研究開発からスタートしたアライドテレシス。現在はネットワークのみならずサーバーやクラウドも含めたITインフラ全体の設計から構築、保守、運用、セキュリティーマネジメントなどさまざまな製品・ソリューションを開発、提供している。
そんな同社が営業活動の効率化および売り上げ向上を目指すオフィス環境を目的に、2019年11月に開設したのが京橋イノベーションセンターである。「お客様が来たくなる場所、従業員も働いてモチベーションが上がるような場所を目指しました」とアライドテレシスの高橋典央氏は語る。約1300平方メートルのフロアには、このコンセプトを実現するため、同社のソリューションおよびこれまで蓄積したノウハウが詰め込まれている。
(右から)アライドテレシス 執行役員経営企画室室長 高橋典央氏、ソリューションエンジニアリング本部東日本プロジェクトマネージメント部次長 福田香奈絵氏
フリーアドレスの課題 セキュリティと生産性両立スマートオフィスに不可欠な仕組みの一つが、フリーアドレスである。従業員が顧客やチームとコミュニケーションが柔軟にとりやすくなるなどのメリットがあるためだ。
京橋イノベーションセンターもフリーアドレス制を採用しているが、導入にはさまざまな課題があったという。「特に課題だったのはセキュリティです。いつでも・どこでも安定かつ安全に使えるネットワークを作るには、万全の対策が必要でした」と高橋氏は振り返る。特に同センターでは顧客に気軽に同社ソリューションを実感してもらうため、オフィス区画にセキュリティドアを設けていない。つまり誰もが自由にネットワークにアクセスできるようになっているのだ。
セキュリティドアなしでも安全な通信を実現するため、無線および有線共に業務ネットワークへのアクセスは証明書認証によって制限をかけることで、不正アクセスの防止を実現している。「証明書認証を基本とし、有線ネットワークでは認証に失敗すると自動的にゲスト用の回線につながります。一方、無線ネットワークはパスワード認証にてゲスト用の回線につながります。このように、社内ネットワークとゲストネットワークを分離することで安全性を担保しています」とアライドテレシス 福田香奈絵氏は解説する(図表1)。
図表1 京橋イノベーションセンターでの安全なネットワーク実現イメージ
外出の多い従業員の端末はシンクライアントを採用しており、リモートデスクトップで業務PCに接続することで、情報漏えいを防止。「シンクライアントなら事前に持ち出し申請などをすることなく社内リソースにアクセスができます」と福田氏は続ける。
またフリーアドレスでは、固定電話による内線が利用できない。この問題を解決するため、同社では業務用スマートフォンを内線に利用している。つまり、同センターでは電話もデータ通信も無線を使うことになる。
ここで問題になるのが、電話とデータ通信に求められるネットワーク要件の違いだ。電話は移動しながら使うことも多いが、アクセスポイント(AP)間を移動するローミング時にパケットロスや遅延が発生すると、通話が途切れたり、音声品質が低下してしまうという問題がある。一方、データ通信は主にPCが対象となるので、AP間を移動して使うことはないが、高速かつ安定した通信が求められる。どちらのユースケースにも対応するため、アライドテレシスが提供するのが独自技術の「AWC(Autonomous Wave Control)」と「AWC-CB(Channel Blanket)」である。
AWCはアクセスポイントをインテリジェント化し、チャンネルや電波出力を自律的に調整して無線エリア内の電波干渉を最小化する。一方のAWC-CBは複数のAPを1つのチャンネル・SSIDとして扱い、ローミングレスで通信を継続させる技術だ。これらの技術は京橋イノベーションセンターでも採用されている(図表2)。
図表2 京橋イノベーションセンターに採用されている無線LANの特徴