スマートファクトリーの実現に向けてNTT西日本とローカル5G活用に関する共同実験協定を締結したことを4月23日に発表したひびき精機(山口県下関市)は、IoT活用の先進企業だ。従業員数100名弱の中小企業ながら、代表取締役の松山英治氏は、「IoTの取り組みでは山口県内でトップクラス」と話す。
同社はこれまで、工作機械をネットワークにつないでデータを収集し、稼働状況を可視化する“ひびきIoT”を推進してきた。現在は、そのデータを「オーダー状況や工程管理と連動させて生産効率を高めるための取り組みも進めている」と総務部 生産支援システム課の芦刈康規氏は話す。
こうした“デジタル化”の端緒は20年以上前に遡る。
当時はIoTという概念すらなかったが、「1996年頃から、職人の技術をデジタル化するために機械のデータを書き留めたり加工技術を写真に撮ったりして、条件に応じて適切に加工する技術を磨いてきた」(松山氏)。ネットワーク経由でデータを収集できるIoT対応の工作機械やAI/アナリティクス技術が発達した今、その活動をさらに加速させている。ローカル5G活用もその1つだ。
ひびき精機は1972年創業。半導体製造装置関連部品の製造等を手掛ける
新設工場で「無人化」も検証ひびき精機の工場では約50台の工作機械が稼働しており、有線LAN経由で稼働状況に関するデータを収集している。また、工業団地内にある2つの工場(第1・第2工場)の間は屋外用Wi-Fiで接続し、データを共有している。
芦刈氏によれば、工場内の有線LANがレイアウト変更の妨げになること、工場間のWi-Fiが不安定で通信速度が遅いことが課題だ。この両方をローカル5Gで代替しようというのが、今回の実験の目的である(図表)。
図表 ひびき精機のローカル5G実験のイメージ
現在は、8月の実験開始へ向けて準備を進めているところだ。28GHz帯を用いたNSA(ノンスタンドアロン)構成のローカル5Gシステムを構築し、2021年3月まで、工場間・工場内の電波特性やデータ取得の検証等を行う計画である。「既存の有線LANやWi-Fiに比べてどれくらい通信速度が上がるのか、また、28GHz帯は遮蔽物に弱いと言われるが、工場内の機械や工場周辺のクレーン等が伝搬にどの程度影響するのかなどを調べる」(芦刈氏)
こうした既存インフラの代替だけでなく、新たなアプリケーションの活用にも取り組む。
ひびき精機は第3工場を6月に新設したばかりで、この第3工場は「高精細カメラ映像の解析や、AIによるデータ分析によって省人化・無人化する」(松山氏)ための“実験場”としての役割も持つ。既存の第1・第2工場に比べて「まっさらで、ローカル5Gの導入もしやすい」環境だ。
この第3工場内に4Kカメラを設置し、ローカル5Gで第1工場へ映像を伝送。遠隔監視による業務効率化の検証も行う予定だ。