NTTグループは2019年4月18日、ふくしま未来農業協同組合、エンルート、日本農業とともに、準天頂衛星みちびきに対応したドローンやNTTグループのAI技術を活用したスマート稲作の実証実験を行うと発表した。
実証実験は、みちびき対応ドローンとNTTグループのAI技術を活用した「スマート営農ソリューション」により、水稲の収量増大・品質向上、作業効率の改善が図れるかを検証するもの。今年4月から2021年3月まで、福島県南相馬市のアグリ鶴谷(つるがい)農場で、福島県のオリジナル品種「天のつぶ」を用いて行われる。実験に参加するのは、NTTグループ(持ち株会社、NTTデータ、NTTデータCCSなど8社)、ドローンベンダーのエンルート、福島みらい農業協同組合、日本農薬などを加えた計15社。 実験では、スマート営農ソリューションの「生産」プロセスで用いられる、A「スマート生育診断・追肥」、B「スマート病害虫診断・対処」、C「スマート病害虫予測・対処」の3つのシステムについて、検証が行われる。
「スマート営農ソリューション」のイメージ |
Aの「スマート生育診断・追肥」は、みちびき対応ドローンなどで撮影した画像を元に、稲の生育ステージをAIで正確に診断し、収穫・品質向上に最適な追肥のタイミングを特定。それに基づいてドローンで追肥作業を行うもの。
上空からの撮影では把握できない稲の部位を把握するため、地上の定点カメラの映像も併用する。
稲の栽培では、穂か出る1カ月前、茎の中で1~2mm程の幼穂が形成される分げつ期に移って10日後に追肥を行うことで、最も収量・品質が高くなることが経験則から知られている。
現状では最適なタイミングを特定するため、カッターで茎を切り開いて人の目で確認しているが、実験では、これをドローンや定点カメラで撮影した圃場の画像を使ってAIで診断できるようにする。この技術はNTTデータCCSが茨城県の実験農場で実証済みで、今回の実験でも同社の技術が用いられる。
撮影や追肥の作業に使用するドローンは、NTTデータのドローン運行管理システム「airpalette UTM」で制御を行う。
日本農薬のデータを用いてすでに千葉県で病害虫・雑草を識別する実験が行われており、70種類への対応が可能になっているという。
「地球温暖化の影響で、これまでの作物の経験則に基づく農作業のタイミングにずれが生じるようになったり、その土地にいなかった病害虫が出現するなどの問題が出てきている。私どものソリューションで、こうした問題をカバーできると考えている」。NTT 技術企画部門 イノベーション戦略担当 担当部長の金井俊夫氏は、実験の狙いの1つをこう説明する。ドローンとAIの活用で農作業を効率化することで、就農人口減少を解消する有力な手立てにもなるという。AとBの実験は、農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の一環として実施される。
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NTT 技術企画部門 イノベーション戦略担当 担当部長 金井俊夫氏 |
もう1つのC「スマート病害虫予測・対処」は、独自に実施される実験で、みちびきで撮影した画像、赤外線カメラで取得した水温・地温などのデータや気象データなどを活用し、NTT研究所AI技術により病害虫の発生を予測するもの。
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ドローンとAIによる稲の「病害虫予測・対処」システム |
今回は食害によるコメの等級低下の原因となるカメムシを対象とした。
金井氏は「農家が農薬を散布する際には準備に2~3日程度必要となるため、発生を事前に予測が付けば、被害防止に大きな效果が期待できる」とした上で、「NTTが調べた限り、稲作での活用は日本で初」と述べた。
技術開発に携わったNTT サービスエボリューション研究所主幹研究員の宮本勝氏は「人口の分布の変化を予測する人流予測のロジックを虫に応用した」と説明する。
金井氏は、今回の実験に「みちびき」を利用した理由を「日本の農業、田畑の4割くらいは中山間地域にあり、GPSだとマルチパスで正確な測位ができない可能性がある」と説明する。誤差が生じるとドローンを使った正確な診断、作業ができなくなるからだ。
データはドローンからSDカードを回収する形で収集しているが、規制が緩和されれば、セルラードローンを用いて、リアルタイムでデータを収集することも計画しているという。
NTTでは今回の実験の目標をコメの収量の30%増大、品質向上に置いている。さらに、ドローンを活用することで農薬散布や肥料散布に関わる時間を30%削減できると見ているという。
2年間の検証を重ねた上で、NTTデータの営農支援プラットフォーム「あい作」の付加サービスとして商用化する計画だ。海外展開も視野に入れている。