長年にわたって高速・大容量化を追求してきた携帯電話事業者のネットワークが、新たに勃興したIoT向け通信のニーズに応えられずにいるうちに、ベンダー独自仕様の無線技術にIoTソリューションを持っていかれてしまった――。
LPWAの市場が急速に立ち上がったここ数年の状況は、このようにまとめられよう。携帯電話事業者と3GPPが「足元をすくわれた」と表現するのは、情報通信総合研究所(ICR)ICTリサーチ・コンサルティング部で上席主任研究員を務める岸田重行氏だ。
仏シグフォックスが提供するSigfoxが世界50カ国(2018年10月時点)でサービス展開され、米セムテックやIBM、シスコシステムズが牽引したLoRaWANもそれに続いた。これらのベンダーは、通信市場の空隙を突くことでIoTニーズをつかむことに成功した。
情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 上席主任研究員 岸田重行氏
先行者利得は活かせずだが、2016年から始まった“3GPPコミュニティ”の追い上げもまた凄まじかった。
Sigfox/LoRaWAN勢が先行者利得を十分に勝ち取る前に、世界中の携帯電話事業者がLTE-M、NB-IoTで巻き返す体制を一気に整えようとしている。岸田氏は「状況は国によって異なるが、日本についてはそこまで先行者利得が発揮されたとは言えない。理由として、IoTの裾野があまり広がっていなかったことがある」と分析する。
IoTの普及は今まさに勢いがつき始めたところと言えるが、そのタイミングで、日本国内でも“セルラーLPWA”の商用サービスが相次ぎ開始された。さらに、携帯電話事業者が戦略的に低水準の料金を打ち出したことで、これまで様子見を続けてきたユーザーや、IoTソリューションを提供するSIerにとっても、セルラーLPWAは非常に魅力的な通信方式となった。豊富な通信方式の選択肢が与えられ、IoT市場が本格的に動き始める環境が整ったといえるだろう。
図表1 主なLPWA規格
遅れてやってきたセルラーLPWAを加えて、IoT向け通信の市場競争はいよいよ“第2幕”を迎えるが、アナリストは今後の展開をどう見ているのか。以下、デバイスの普及、ユースケース開拓などの複数の視点から予測していこう。
なお、本稿では、LTE-M/NB-IoTを「セルラー系」、それ以外の免許不要周波数帯を用いるSigfox、LoRaWAN等を「非セルラー系」と呼ぶことにする。