――今年1月に発表した「2020中期経営戦略」で、テレコムキャリア事業の構造改革を打ち出し、4月1日付で「テレコムキャリアビジネスユニット(BU)」を「ネットワークサービスBU」に改称する組織変更を実施しました。どんな狙いがあるのですか。
河村 デジタルトランスフォーメーションにより、様々なビジネスがネットワークを介して行われるようになるなか、我々の“つなぐ”というアセットを、もっといろいろなところで活用できると考えています。
NECは元々、お客様のドメインごとにBUを分けていました。テレコムキャリアBUはキャリア向けのBUだったわけですが、「我々のアセットをエンタープライズやパブリックなど向けのビジネスでも共有したい」ということで、こういう形にしました。
――これまで培ったネットワークに関する強みを、キャリア以外の企業や官公庁にも提供し、成長を図ろうという戦略ですね。一方、既存のキャリア向け事業はどう変わりますか。
河村 テレコムの世界も変革が進んでいます。これに貢献するため、従来のネットワークインフラ領域にもしっかり対応しながら、ソフトウェア・サービス領域に重点をシフトさせ、共創を通じて同領域でのビジネスを拡大していきます。
整理しますと、顧客セグメントを“横”に広げ、我々の“つなぐ”という価値をエンタープライズやパブリックにも提供していこうというのが1点目の狙い。ネットワーク機器中心だったキャリア向け事業に関しては、その上のソフトウェア・サービス領域という“縦”方向に我々の価値を広げていこうというのが2点目の狙いです。
この2軸で事業拡大を図ることで、ネットワークサービスBUの“価値の面積”を広げていきたいと考えています。
IoTの世界で生きる知見――では、2つの軸それぞれについて、詳しく教えてください。まず、エンタープライズやパブリック向けには、どんな価値を提供していこうと考えているのですか。
河村 今、エンタープライズやパブリックのお客様は、“つなぐ”ということに関して、自分たちのニーズをあまり実現できていないのではないでしょうか。もっと言うと、現状提供されている通信サービスを受け入れる形になっているのではないかと思っています。
しかし今後、IoTの世の中になっていくと、いろいろなつなぎ方が必要になってきます。例えば、「1時間に1回センサーの情報を吸い上げればいい」だったり、「大容量のビデオをリアルタイムに流したい」、「コネクテッドカーのデータ通信にかかる時間を短縮したい」などです。
また、それらのサービスを利用するまでの時間を短縮したい、スケールアップなどサービス利用の変化に柔軟に対応したいなどのニーズもあると思っています。
こうした様々なニーズに応じた通信を提供することで、新しい価値を実現していきたいと考えています。
――NECは、これまでもエンタープライズなど向けにネットワーク事業を行ってきました。ネットワークサービスBUが提供できる新しい価値とは具体的には何なのでしょうか。
河村 IoTの世界は、5GやLPWAなどの無線が中心になります。そこで我々ネットワークサービスBUの知見が期待されているのです。エンタープライズのお客様には、エンタープライズBUを通して、我々のアセットをお届けする形になります。
――ネットワークサービスBUのアセットを、NEC全社に提供していくわけですね。そのアセットの中身について、もっと詳しく知りたいのですが。
河村 モノというよりはスキルです。多様化する“つなぐ”というニーズに対して、きめ細かに価値を提供していきます。まずは、建設、交通、警備などの業種向けに力を入れたいと考えています。
――建設といえばNECは、大林組、KDDIと5Gを活用した建機の遠隔操作の実証実験を実施しています。また、警備に関しても、ALSOK、NTTドコモと5Gのトライアルを行っています。こうした取り組みが、ネットワークサービスBUのエンタープライズ、パブリック向け事業のモデルケースと考えてよろしいですか。
河村 そうですね。ただ、キャリアとの連携は、枠組みの1つです。いろいろな枠組みが出てくると思います。
――NEC単独、あるいは様々なパートナーと組みながら、企業や官公庁のデジタルトランスフォーメーションの基盤となるネットワーク構築を支援していくということですか。
河村 そういうイメージで結構です。
ここまで無線アクセスを中心に話してきましたが、MEC(Multi-access Edge Computing)も含めたネットワークや分散型データベースのトポロジー、運用自動化に関するコンサルティングなども提供していきます。
――まずはどれくらいの売上規模を見込んでいますか。
河村 急に売上が上がるとは考えていません。売上的には当面、既存事業がほとんどを占めますが、今後5GやIoTによりネットワークを活用する市場が広がっていくなか、通信の価値をより大きくするための変革に取り組み、新しいビジネスをどんどん起こしていきます。