――携帯電話市場が成熟化し、販売台数も伸び悩んでいる中で、ソフトバンクモバイルはiPhone効果から好調を維持しています。
松本 携帯電話市場がサチュレーション(飽和)していると以前から言われていますが、これは「もしもし、はいはい」のための携帯電話の契約数が飽和しているという意味であり、使われ方はむしろこれから飛躍期に入ると見ています。
携帯電話は通話に始まりメール、Web、ゲーム、音楽と日本が世界を先行してきました。しかし、当社の孫(正義社長)が「モバイルインターネットの時代へ」と言っているように、インターネット端末としての携帯電話の使われ方はまだ入り口に来たところにすぎないと思います。
そのインターネット端末であるiPhoneは、既存の携帯電話とは180度異なる存在です。
日本の携帯電話は機能が複雑化してもきちんとしたOSを作ってこなかったため、モデルごとの開発費が膨大になりました。いわば、「猫をなでていたら虎になってきた」ために、手をつけられない状態になっています。これに対し、iPhoneは携帯電話を小型のPCと捉え、初めにきちんとしたOSを作りました。アップルは最初から「虎を飼いならすにはどうしたらよいか」を考えていたといえます。
iPhoneは日々アプリが増え、“新しい使い方”が提案されており、これからも進化していきます。それをグーグルのAndroidが追い上げている状態で、二強時代が来るかもしれません。そうなると、使われ方の変化が加速され、量的にはともかく、質的には拡大期に入ると見ています。
――端末およびサービスのレイヤでアップルやグーグルなどグローバルなプレイヤーの勢力が拡大していることは、日本の通信キャリアにとって脅威なのではありませんか。
松本 通信は端末、サービス・コンテンツ、ネットワークの三位一体で成り立っており、ネットワークはファクターの1つにすぎません。ネットワークはローカルですが、サービスや端末は国境がなくグローバルであるにもかかわらず、すべてローカルにしたのが日本の携帯電話です。そうしたメンタリティが日本をだめにしています。
ソフトバンクは“グローバルなインタネットサービスカンパニー”を標榜しており、各国の企業と合弁を組んでいます。お互いに自社の得意分野を出し合い、大きなグループの一部になればいいと考えているので、アップルやグーグルと競合するわけではまったくありません。実際、アップルとはきわめて良好な関係を築くことができていると思っています。
iPadは非常に魅力ある製品
――アップルが先日発表したタブレット型の「iPad」はどのように評価していますか。
松本 私ぐらいの年齢になると、携帯電話の小さな画面では文字が見づらく、かといって絶えずPCの画面に向かっているのも辛いので、いつでもどこでも、くつろいだ姿勢で読むことができる紙メディアを手放せていません。
一方、現在のPCは、アインシュタインのような天才に車を運転させているようなものです。私みたいなユーザーは、PCの本来の能力の1%ぐらいしか活用できていないのに、高い値段を払い、重さを我慢して持ち歩いているのが実情です。iPhoneの画面を大型化したような商品なら、こうしたユーザーに必要な機能はすべて入っており、持ち運びが楽で、紙代わりに使うこともできるので、絶対にニーズはあると思います。
――NTTドコモがiPadへのSIMカード提供に意欲を見せていますが、ソフトバンクではSIMカードを提供する予定はありますか。
松本 それについては、現時点で私がコメントすることではありません。ただ、iPadは非常に魅力のある製品で、大いに売れるだろうと予想しています。
――ドコモはAndroid端末「Xperia」の発売に合わせて独自のアプリストア「ドコモマーケット」を開始します。今春、ソフトバンクもAndroid 端末を発売しますが、独自アプリストアの計画はありますか。
松本 あまり「独自」をうたったものは提供したくないと考えています。自己満足はできても、それがユーザーにとって本当によいことかどうかは分かりませんから。もし、今ないもので、何かよい機能があるのなら、むしろアップルやグーグルに直接頼んだ方がよいのかもしれません。
我々の仕事はネットワークとサービス、端末の3つの要素をインテグレートし、最も使いやすい形でユーザーに提供することにあり、テクノロジーはそのための道具にすぎません。毎日のように、世界中からさまざまなテクノロジーの売り込みがあるのですから、その中でベストのものを見極め、取り入れていけばよいのではないでしょうか。
個々の技術や商品ではなく、エコシステム全体のインテグレーション能力こそが、我々としての「差別化」の源泉だと思っています。