――Sigfoxのサービスが2月27日に始まってから、半年以上が経ちました。ここまでの手応えはいかがですか。
黒瀬 いきなりエンドユーザーの利用が増えたということはありませんが、多くのパートナーがSigfoxのネットワークを使った実証実験を始めています。Sigfoxを利用したサービスやデバイスを1年以内に提供するとお約束いただいたパートナーの数は、10月11日時点で203社にも上っています。
――サービス開始前の想定と比べると、期待以上の滑り出しですか。
黒瀬 正直に言うと、思っていたよりも、PoC(Proof of Concept:コンセプト実証)に時間がかかっている印象はあります。海外の状況と比べると日本は出遅れていますから、時間軸という意味では、もう少し前に進めたかったですね。
――PoCは活発なものの、なかなか実導入に至らないというのは、日本のLPWA市場全体についていえることです。
黒瀬 ただ、1年後には200近くのサービスやデバイスが登場するといっても過言ではない状況ですから、日本のLPWA市場はまもなく本当に大きく立ち上がると期待しています。
封筒にもSigfox――Sigfoxを活用したPoCが数多く進行中ということですが、どういった分野のPoCが多いのですか。
黒瀬 一番目立つのは、水道・ガスなどのユーティリティ系です。あとは、子供や高齢者の見守り、運送用パネルなどのアセット管理も非常に多いです。
――LPWAの代表的なユースケースといえるものが中心ですね。
黒瀬 そうですね。まだ十分に開拓できていませんが、我々としては、想像も付かないような使い方も今後出てくると思っています。Sigfoxでこれだけ通信料金が安くなると、今まで夢にも思っていなかったモノにも、通信機能が搭載されていくはずだからです。
――例えば、どんなモノが考えられますか。
黒瀬 9月にSigfoxのワールドワイドのイベント「Sigfox World IoT Expo」がプラハで開催されたのですが、そこで発表された新サービスの1つに「Admiral Ivory」があります。小包や封筒の開封チェックなどに使えるサービスです。
おばあちゃんが孫にプレゼントを送ったとしますよね。プレゼントが開封されたと封筒の中のセンサーが検知すると、Sigfoxでクラウドにデータを送信。これをトリガーに、孫のスマートフォンへ「おめでとうメッセージ」を送るといったことが実現できます。
また、空になったペットボトルの管理にSigfoxを使うというユースケースも紹介されました。こうしたことが機器を含めて数十円、数百円以下のレベルで実現できるようになるのが、Sigfoxのすごいところです。
――確かに、これまでの常識からは想像できないユースケースです。年100円~というSigfoxの通信料金の安さは、IoT市場に強いインパクトを与えましたが、改めて低コストで提供できる理由を教えてください。
黒瀬 なぜ、Sigfoxが安くできるかというと、今まで通信できなかったモノを“通信の世界”に取り込むため、徹底的に機能を削ぎ落としたからです。
高速化などを目的に、プロトコルをどんどんヘビーにしてきたのが、これまでの通信の歴史です。しかし、Sigfoxの発想は逆です。通信速度はたった100bps。機能を徹底的に割り切ることにより、部品1つとっても低コストに作れるようになっています。
また、データ量が小さいということは、1基地局当たりの収容数も増えるということです。通信料金は、1つの基地局と通信回線にどれだけのユーザーを収容できるかで決まりますから、結果的に通信料金も安くできるわけです。
標準化団体が策定する通信規格の場合、あらゆる要望を聞きながら、その最小公倍数を探っていきますから、どうしてもプロトコルヘビーになってしまいます。
――仏Sigfox社の独自規格だからこそ、大胆な割り切りが可能ということですね。Sigfoxの通信モジュールの価格は今どのくらいですか。
黒瀬 現在は約2ドルですが、2022~2023年ごろには50セントくらいになる見込みです。