――オープンな組込みシステム開発環境「TRON」の確立、そして世界で最初にIoTのコンセプトを世に打ち出したことが評価され、坂村教授はITUの150周年記念賞も受賞していますが、その坂村教授の目にIoTの現状はどう映っていますか。
坂村 あらゆるモノの中にコンピュータが入り、ネットワークでつながり、生活や社会を変える――。私は30年前からそう提唱してきましたが、ネットワークインフラが整備され、省電力で小さなコンピュータが出てこないと実現できません。
それが今、例えばネットワーク環境について言えば、インターネットが全世界的に整備されました。さらにLPWAと呼ばれる、通信速度は遅いが非常に省電力で遠くまで電波が飛ぶIoT向けの無線技術も登場しています。
私が30年前から言ってきた概念を実現するための準備がいよいよ整ってきたと思っています。
そこで昨年12月に開催したTRONSHOWのテーマは、「IoT動く」としました。IoTはもはや研究レベルではなく、現実世界にフィードバックしていく段階に入った─。そんな意味を込めて「IoT動く」としたのです。
東京大学教授 トロンフォーラム会長 YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長 坂村健氏 |
――IoTは今後どのような方向へ動いていくとお考えですか。
坂村 IoTにも順番があって、最初はやはり自分のモノをクローズにつなげるところから始まります。
製造業なら、自社の生産設備だけをつなげて生産効率を向上させるクローズなIoTです。
このクローズIoTに似ているのが、トヨタのカンバン方式です。カンバン方式によって無駄な在庫を持たないジャスト・イン・タイムの生産体制を実現したトヨタは、大きな成功を収めました。ただ、あくまでトヨタグループ内に閉じたクローズな仕組みであり、社会全体が効率化したわけではありません。
今、IoTの世界で起きているのは、オープンIoTの動きです。オープンIoTとは、分かりやすく言うと、「カンバン方式を社会全体でやろう」という考え方です。
例えば、これまでのホームオートメーションは家の中だけに閉じていました。しかし、オープンIoTでは“外”ともつながります。従来、「朝7時に起きる」としかセットできなかった目覚まし時計が、鉄道会社の運行情報サーバーなどともつながり、「電車が遅れているから」と早めに起こしてくれるようになるのです。