通信事業者のバックボーンネットワークや海底ケーブルなどに使われる光通信システムでは、波長・偏波多重技術などにより1本の光ファイバーケーブルで10T(テラ=1000G)bpsのデータ伝送を可能にするシステムの商用化が進んでている。
こうしたなか、さらなる超高速化・大容量化の取り組みも当然行われている。KDDI研究所は今年3月、光通信の伝送容量をさらに100倍以上高めることができる次世代光ファイバー通信技術の実証実験に世界で初めて成功したと発表した。同社はこの技術を用いて光ファイバー1本あたり1P(ペタ=1000T)bpsを超える超高速・大容量通信の実現を目指している。
光ファイバーのコアを19個にKDDI研究所が今回実験を行った光通信システムは、1本の光ファイバーの中に複数の光の通り道を設ける「空間多重」により100倍以上の大容量化を実現するものだ。これには、大きく2つの要素技術が用いられている。1つが光ファイバーのマルチコア化だ。
光ファイバーの断面は屈折率の高いコアと呼ばれる部分を、それより屈折率の低い部分(クラッド)が包み込む構造となっている。コア部分に送出された光信号はクラッドとの境界で反射されて遠距離まで届く。
現行の光ファイバー(シングルコアファイバー)にはコアは1つしかないが、マルチコア光ファイバーはこれを複数配置して1本の光ファイバーの中にコア数分の独立した光伝送路を設けるもの。今回の実験では19個のコアを持つ光ファイバー(以下19コア光ファイバー)を用いることで、伝送容量をシングルコアファイバーの19倍に高めている。
19コア光ファイバーの断面(KDDI 研究所提供)
KDDI研究所でこのプロジェクトを所管する執行役員コアネットワーク部門担当の森田逸郎氏は「シングルコアファイバーの伝送容量は100T(10万Gbps)が上限で、これ以上のデータを送ろうとするとファイバーが壊れてしまうことが分かってきた。そこでファイバーの中で使われていない領域にコアを設けエネルギーを分散させ100Tbpsを超える大容量化を実現しようという動きがでてきた」と、この技術が登場してきた背景を説明する。
「アイディアは20数年前からあったが、従来はそこまでの大容量化のニーズがなく、製造技術も追いついていなかった。ここに来てニーズ・技術両面で環境が整ってきた」というのだ。
KDDl研究所 執行役員 コアネットワーク部門担当 森田逸郎氏
現行のシングルコア光ファイバーの太さは直径100ミクロン程度(髪の毛の太さに相当)だが、今回実験に用いられた19コア光ファイバーはそれよりやや太めの直径300ミクロン程度。これは大容量化と配線作業に不可欠な柔軟性の両立を考慮したものだという。