経営危機を乗り越えるため、3つのステップでワークスタイル変革に取り組んだIBM――。「ワークスタイル変革を実現するためのステップ1は、自社の置かれた現状をしっかりと認識し、その現状を改善していくための目標を設定することだった」と日本IBMの北好雄氏は話す。
日本アイ・ビー・エム ソフトウエア事業 Collaboration Solutions事業部 ICP コンサルティングITS 北好雄氏 |
IBMが経営危機に陥った2002年前後は、米ヤフーや米グーグルがすごい勢いで業績を伸ばし、米フェイスブックや米ツイッターが登場してワールドワイドで市場を占有していく時期だった。そうしたなか、世界中にある現地法人が各国ごとに個別最適化したビジネスを展開していたIBMは、進行するグローバリゼーションに対応できず、業績は低迷して株価は半減。「黒字倒産する」とまで言われた。
ただ、幸いだったのは当時12人いた取締役のうち11人が社外から登用された人物だったことだという。外部からの冷静な視点を得ることでIBMは現状をしっかりと認識し、「各国最適から世界最適へ」と舵を切れた。「One IBM」の実現という目標を定めることができたのだ。
北氏は、「自分ではわからない」「世の中の動きは思わぬ形で影響する」「外部の眼が必要」という3つが、ステップ1での“気付き”だと言う。
外部からの冷静な視点を得て現状をしっかりと認識し、「各国最適から世界最適へ」と舵を切ることに成功 |
社員間のコミュニケーションを円滑化するUCと社内SNS
ワークスタイル変革を実現するためのステップ2は「実行すること」。IBMではまず、会社の設計を作り直すことに着手した。具体的には、One IBMを実現するために全社員の行動基準を揃える仕組みや、世界に140以上ある現地法人をまとめて経営管理を行う仕組み、One IBMを支える情報基盤の構築といったことだ。
「なかでも重要視したのが情報基盤の構築。これがないと、例えば私は米国やフランスにいる同僚と一緒に働くことができない」と北氏は強調する。
ステップ2では、会社の設計を作り直すことに着手。なかでも情報基盤の構築を重要視した |
例えば北氏は、IBMのUCツール「IBM Sametime」を業務で担当しており、北米やアジア、欧州などにも同僚がいる。海外の同僚とのコミュニケーションは主にSametimeと社内SNSツール「IBM Connections」を利用して行っている。
「構造改革を進めていくなかで、海外の同僚がどこで何をしているのかがわからないという状況に直面した。こうした課題を解決するために2つのツールを活用している。リアルタイムコミュニケーションを行う際はSametimeを使い、Connectionsは知恵の共有や共同作業場として利用している」
だが、情報基盤の整備だけではワークスタイル変革を実現できない。「変革を支える制度整備も必要だ」という。北氏がよく利用するのは「e-ワーク制度」(在宅勤務制度)である。
Web会議などを利用して海外の同僚とミーティングを行う場合、時差の関係で日本時間の早朝や深夜に行わなくてはならないことがある。「例えば23時にミーティングがある日は17時ぐらいに帰宅し、プライベートな時間を過ごしてからWeb会議に参加する。そして翌日はいつもより遅い10時ごろ出社する。こうした働き方を可能にするのがe-ワーク制度で、この制度のおかげで社員はワークライフバランスの取れた生活を送ることができる」