IBM再建の要となった「ダイバーシティ」
「クッキーを作っていた人に、なぜITができるのか――。ほとんどのIBM社員がそう思ったことを、今でもよく覚えている」
倒産寸前まで追い込まれたIBMを救うために1993年、ナビスコのCEOからIBMに転じたルイス・ガースナー氏。同氏を迎えた当時のIBMの雰囲気について、元日本IBM専務でその後、ベルリッツ コーポレーションCEOなどを歴任、現在は企業のダイバーシティ促進をサポートするNPO法人J-Winの理事長を務める内永ゆか子氏はこのように振り返った。
なぜガースナーはIBMを再建できたのか。内永氏によれば、「改革の軸の1つが実はダイバーシティだった」という。
内永ゆか子氏は、東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBMに入社し、1995年に取締役就任、2004年に取締役専務執行役員。同社を退職後は、ベネッセホールディングス取締役副社長や、ベルリッツ コーポ―レーションCEO、NPO法人J-Winの理事長(現任)などを務める。2002年にハーバード・ビジネス・スクール・クラブ・オブ・ジャパンのビジネス・ステーツウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞 |
ダイバーシティとは、人種や性別など、人材の「多様性」を競争力の源泉としていく経営戦略のことだ。安倍政権が成長戦略の目玉の1つとして「女性活用」を打ち出して話題を集めているが、この女性活用はダイバーシティの最も代表的な例に数えられる。
女性活用というと、人権の観点から捉える人も少なくないだろう。しかし、内永氏が繰り返し強調したのは、「これはビジネスのため」という点だ。ガースナー氏が来日した際、内永氏は「あなたがダイバーシティを企業戦略として取り入れたおかげで、日本IBMの女性活用はかなり進みました」とお礼を言ったそうだが、ガースナー氏にスパッとこう返されたそうだ。
「俺は女性のためにやったわけではない。企業のため、IBMのためにやったんだ」
なぜダイバーシティが、企業が競争力を向上させていくうえで重要なのか。そして、ダイバーシティを推進するにあたっては、なぜITを活用したフレキシブルな働き方が欠かせないのか。
9月10日、「企業力強化へ、ニッポンの働き方を変える1日。」をテーマに、ソラシティカンファレンスセンター(東京・御茶ノ水)で開催されたイベント「ワークスタイル変革Day」(主催:リックテレコム)において、「経営戦略としてのダイバーシティと働き方改革」と題して行われた内永氏による基調講演の概要をレポートする。