9割の企業がiPadを利用する製薬業界
エーザイ 戦略企画室 ICTマネジメント担当 担当課長の開發寛氏によれば、日本の製薬会社の「ほぼ9割がiPadを使っている」という。おそらくiPadの導入率が最も高い業界の1つといえるだろう。
ただ、これほど広く普及しているだけに、単にiPadを使って営業を行うだけでは競合他社に対する差別化策とはならない。「20社以上入れているから、『またお前もiPadか』といわれてしまうのが、製薬会社の現状」と開發氏は話す。
第一世代のiPad活用法である「電動紙芝居」の特徴 |
かくして製薬業界は、普及率が高いだけではなく、iPadの業務活用の進化が最も早い業界の1つともなっている。製薬業界におけるiPad活用は現在、第一世代を経て第二世代に突入し、さらにエーザイでは第三世代へ向けた準備を着々と進めているところだ。
第三世代のiPad活用法とは何か――。ソフトバンクグループのプライベートイベント「SoftBank World 2013」で7月24日に行われた開發氏の講演内容をレポートする。
第一世代は「電動紙芝居」、第二世代は「CLM」
製薬業界では、MRの営業力強化にiPadを活用している。MRとはMedical Representative(医薬情報担当者)の略。医師などの医療従事者に対して、自社の医薬品に関する情報を提供するのがMRの役割だ。いわゆる営業職に相当するが、製品の物流や価格交渉には関与しない点が他業界の営業職との大きな違いとなっている。
MRの定義 |
製薬業界における第一世代のiPad活用法を、開發氏は「電動紙芝居」と表現する。従来の紙の資料による説明と比べて、動画などを用いてインパクトのある説明ができるようになった。この第一世代は他業界でも最もポピュラーなiPad活用法だが、前述の通り、製薬業界ではすぐに陳腐化する。そこで第二世代の登場となるわけだが、どう進化したのだろうか。
「我々は医師のことをよく分かっておらず、そのために医師のニーズに合っていない情報を提供しているのではないか」。開發氏によると製薬会社各社は、医師のニーズにより近づくためのツールとしてのiPad活用を模索し始めたという。
その結果、トレンドとなったのがアンケート連動の資料説明である。これは、iPadでアンケートをとり、その回答にもとづいて、複数の資料の中から医師の要望に沿った資料を表示するというもの。「少しでも医師のニーズに合った資料を提供できる仕組みを考え出した」
さらには、「どの資料が用いられたか」「その反応はどうだったか」といったログを分析し、説明資料の継続的な改善に活かしている製薬会社も多いという。マーケティングの世界で「クローズド・ループ・マーケティング(CLM)」と呼ばれる手法である。「製薬会社の担当者に聞くと、『CLMを行いたいからiPadを入れた』というケースが非常に多い」そうだ。