クラウド化で需要が拡大する「ADC」の最新動向

アプリケーション配信を最適化するうえで、必要不可欠なソリューションとなったADC。スマートフォンなどの新しいデバイスの普及や仮想化/クラウド化の進展に伴い、さらにその市場を拡大させている。

パケットの中身を詳細に精査し、複数のサーバーへトラフィックを振り分けることで最適なアプリケーション配信を実現する「アプリケーション・デリバリ・コントローラ(Application Delivery Controller:以下ADC)」。近年、このADC市場が活況を呈している。

アイ・ティ・アール(ITR)が昨年行った調査によれば、2011年から2016年までのCAGR(年間平均成長率)は13.8%で推移。2016年には325億円の市場規模に達すると報告されている(図表1)。

図表1 国内レイヤ4-7スイッチ市場規模推移および予測(出典:ガートナー)

年度 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 CAGR
(2011~2016)
市場規模 11,720 17,000 21,700 25,000 27,500 30,000 32,500 13.80%

単位:百万円 出典:ITR「ITR Market View:ネットワークアプライアンス市場2012」

同社シニア・アナリストである甲元宏明氏は、「今年度調査では、導入がある程度一巡したこともあって昨年度予測よりも成長カーブは緩やかになりつつある。とはいえ、他のIT系ソリューションと比べれば、まだまだ成長機運にある」と分析する。

ADC市場躍進の理由は主に2つある。1つはSNSやソーシャルゲームといった新しいWebコンテンツの爆発的な普及。もう1つは、スマートフォンやタブレット端末など、サーバーにアクセスするデバイスの増加だ。これらの要因によって、サーバーに対するトラフィックが急増。その負荷分散のために、ADCが必要不可欠となっているのである。

こうした背景から、通信キャリアやデータセンター事業者、そしてクラウドサービスプロバイダーなどの「サービス事業者」の導入増が、現在のADC市場をけん引している。

一方、企業においてもADCの導入が加速しつつある。従来、企業におけるADCの用途は、ECサイトなど外部顧客向けサービスが中心だった。しかし最近では、企業の仮想化/クラウド化の進展により、社内システム用途にも導入が拡大しているという。甲元氏は、「ERPなどの基幹系システムでも仮想化が進み、プライベートクラウド上で運用する企業が増えている」と話す。

1台の物理サーバー上に複数の仮想サーバーが稼働する環境では、これまで以上に物理サーバーにアクセスが集中し、パフォーマンスの低下や処理遅延が生じるようになる。また、商品販売データウェアハウス等を例に挙げると、日次・月次といった集計業務の際にサーバーへの負荷は増大する。

ECサイトほどではないにしろ、社内システムの処理に遅延が発生すれば、昨今の企業が掲げる「ビジネスの俊敏性」を阻害してしまうことになる。そうしたことから、社内システムにおいてもADCの活用が進みつつあるのだ。

多機能化進むADC製品

ADC市場が活気に溢れるなか、製品間の競争も激しさを増している。マクニカネットワークスセキュリティ事業部技術1部第4課の谷口直陽氏は、「今やADCはコモディティ化しており、機能追加等によって、いかに付加価値を提供できるかが勝負になっている」と説明する。

実際、メーカー各社はADC製品にさまざまな機能を追加し、シェア拡大へしのぎを削っている。中でもトレンドの1つとして挙げられるのが、セキュリティ機能の強化だ。

本来、ADCはトラフィック管理のための高度な制御エンジンを有していることから、セキュリティ機能を実装しやすいという側面を持つ。そうしたことからWebアプリケーションファイアウォールなどのセキュリティ機能を搭載した製品が増えている。

特に近年、注目を集めているのが、DDoS(Distributed Denial of Service:サービス不能)攻撃対策の実装だ。DDoS攻撃の大規模化に伴い、ファイアウォールだけでは対処が困難になりつつある。そこで、高度なトラフィック制御が可能なADCを対策のツールとして利用しようというわけだ。

もう1つ、見逃せない進化の方向性が、クラウド化/仮想化への対応である。SCSKプラットフォームソリューション事業部門ITプロダクト&サービス事業本部IPネットワーク部ソリューション第二課の橋本英梨加氏は、「仮想化/クラウド化に対応した柔軟性が、現在のADCに求められている」と強調する。

昨今、Webアプリケーションの利用者のすそ野が広がっており、加えて、システムの仮想化/クラウド化の進展により、トラフィックのピークの傾向を正確に掴むことは困難になっている。そうした予測しえないトラフィックの変動に際しても、「容易にスループット性能を増強できるような仕組みが、ADCに求められている」(橋本氏)というのだ。

同様に、マクニカネットワークス セキュリティ事業部プロダクト第1営業部第1課の矢野裕太氏も「クラウド基盤の成長に応じて、柔軟にスケールアウトできるADCへのニーズが高まっている」と話す。

月刊テレコミュニケーション2013年7月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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